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魔法伯爵は恋をする ~あなたの子どもではありません~  作者: 瀬里@ピッコマ連載中


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4 街のデート

リズがカリストに連れていかれた先は、初めて二人で街中を回ったあの日とは、明らかに違っていた。

歩くのは、裏路地ではなく表通りだし、巡る店は、市場に並ぶ露店ではなく、表通りの高級店だ。

ともすれば、ねだったわけでもないのに何か買ってくれようとする。

リズは、ふわふわとした気持ちで、カリストの後をついて回った。


カリストは、リズを覚えていてくれた。

それだけでも十分なのに、わざわざデートに連れ出してくれた。

本当に勘違いしてしまいそうになる。


『ねえ、私は、どうしてここに呼ばれたの?』


その答えは、期待していいのだろうか?


(カリストは、好きな人がいたはずだけど、これだけ構ってくれるんだもん。言ってもいいよね?)


失恋した彼女のことは、もう、吹っ切れているのかもしれない。

リズは、カリストにどのタイミングで話そうかとそわそわしながら、横に並んで歩いた。


街は、豊穣の祭りが近いためか、活気に溢れている。


「もうすぐ豊穣の祭りだな」


豊穣の祭りは、建国以来続いている、秋の豊作を祈る祭りだ。

大地の恵みをもたらした魔女の功績を称える一面もある。


「カリストは、貴族だから、魔法伯爵……様に会ったことがあるの? ねえ、どんな人?」

「ああ、今代の魔法伯は、まだお若いが立派な方だ。民の為を思って、魔法を使わない土地の改良に取り組まれている。民の評判もいい」


リズは、なんだかうれしくなる。

魔法伯のイリスとカリストが話したことなんかもう何年もなかった。

それなのに、イリスのことを知っていてくれたのだ。

これだけ好感度が高ければ、きっとリズが魔法伯だと告げても悪い気はしないだろう。


「そういえば、魔女は独身が普通だと思ってたけど、新しい法律で結婚しなければならなくなるんですってね。どうなっちゃうのかしら?」

「詳しいな。まあ、普通に考えて、結婚するだろう。民を大事にされている方だからな。次の代に領地を引き継ぎたいだろう」


他人事のように告げるカリストに、少しだけ、探りを入れてみたくなる。


「ねえ、魔女の相手には、優秀な男性が選ばれるんですって。結婚相手に、カリストが選ばれたらどうするの?」

「焼きもちか?」

「ち、違っ。でも、もしほんとに選ばれちゃったら」

「その時は、駆け落ちでもするしかないな」


どうしてそこでリズを見るのだろう?

やっぱり勘違いするしかない。





その後、おしゃべりをしながら街を歩き、リズとカリストは、レストランへ行った。

街の酒場ではなく、おしゃれなレストランだ。

しかも個室。

きっと、カリストは、リズのことを憎からず思ってくれているに違いない。

そう思うと、欲が出てきてしまった。


魔法伯だと正体を明かしたら、カリストは断れない。

でも、この姿の、街娘のリズのままだったら?


(子どもができたって言ったら、相手が街娘のリズでも、結婚しようって言ってくれる?)


愚かなイリスは、確かめてみたくなってしまったのだ。





食事も終盤に近づいた頃、運ばれてくるデザートを待ちながら、リズは心の準備をした。

けれど、運の悪いことに、デザートは花の香りが強いプディングだった。

香りで気分が悪くなってくる。

リズの様子がおかしいことにすぐに気づいたカリストは、リズを外へと連れ出してくれた。

レストランの裏手にある公園のベンチに座ると、カリストが、水に浸したハンカチを渡してくれる。

辺りは既に暗く、お互いの表情も少し離れるとわからないほどだ。


「大丈夫か? 家まで送ろう」

「いいえ。話をさせて」


リズの様子が落ち着いたのを見計らって、カリストが送ってくれようとしたが、リズは断った。

カリストにリズは、向き合った。

そして、ずっと聞きたかったことを尋ねる。


「ねえ、カリストは、どうして私を引き留めたの?」

「……俺が騎士団にいると、どうしてわかった?」


リズの問いには、問いが返ってきた。

リズは、面食らったが、素直に答える。


「……だって、カリストは、有名だから」

「初めから知っていたのか? 俺が誰だか」

「……ええ」


知っていた。

全て調べ上げて近づいた。


「そして、妊娠して、子どもができたとでも、いうつもりか?」


リズは、答えられなかった。

カリストの意図が明確に分かったから。


「初めから狙っていたのか? 俺の妻の座を」


建物の陰から、月の光が差した。

闇に隠れていたカリストの表情が、露わになる。

先ほどとは違う、嘲笑うかのような笑みにリズは胸を突かれる。


(カリストは、いつからそんな顔をしていたの?)


誤解だといいたい。

違うと言いたい。

けれど、リズのしたことは、半分どころか、ほとんど真実だ。

体中の血が引いていくような感覚がして、手足が震える。


「いいだろう。結婚してやる」


それは、リズが求めていた言葉だけれど、そうじゃなかった。

その言葉を、こんなふうに、侮蔑の眼差しと一緒に受け取りたくはなかった。

怖いほどに体中が冷え切って、目の前が真っ暗になる。


「リズ!! おいっ……」


そのまま、視界だけでなく、音も同時にリズの五感から消え去っていく。


(私、間違えちゃったんだ)



──最後に覚えていたのは、自分の愚かさだけだった。

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