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魔法伯爵は恋をする ~あなたの子どもではありません~  作者: 瀬里@ピッコマ/Lineマンガ連載中


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18/20

18 先代魔法伯

魔獣の襲撃を受け、カリストや公爵家の護衛騎士たちには、多くのけが人が出た。

アルベニス家の魔法薬のおかげで、彼らは皆すぐに回復したが、その後の対応などで、予定は押している。

結婚式の挙行も危ぶまれたが、公爵の助言もあって、そのまま執り行われることになった。


「障害が発生しても、予定をおいそれと変更すべきではない。安泰なさまを見せつけて、民の不安を取り除く──それも上に立つ者の務めだ」

「公爵様は、この結婚を反対なさらないのですか?」

「不肖の弟が、やっと片付くんだ。反対する理由は何もあるまい。何より、魔獣ごときに予定を阻まれるなど、我がエクスデーロにあってはならぬことだ」

「そうよ。この程度の些事、気にするものではないわ」


結婚の中止も考えるイリスに、公爵夫妻は、年長者からの助言として、イリスにそんな言葉をくれるのだった。





結婚式を翌日に控えた今日、応接室では、全員が集まり談笑できるほどの日常が取り戻されていた。

カリストもすでにベッドから起き上がり、この場に参加している。

すっかり顔色もよくなったカリストに、イリスはほっとする。


「それにしても、さすがアルベニス家だ。カリストは毒を受けてひどい状態だったと聞くが、これほど劇的な回復を見せるとはな」

「ええ。私の従者は、アルベニス家の信者になりそうな勢いでしたよ」

「カリスト様が若く健康だったことも、回復の速さの理由です」

「妻が手ずから看病してくれたのです。想いの強さも回復の秘訣では?」


イリスの手を握るカリストに、どきりとして、イリスは思わず視線をそらす。

同時に二日前の出来事も思い出す。


イリスは、二日前、毒から意識を取り戻したカリストにも、結婚の中止を提案した。

カリストを毒で狙ったのが、「かの人」であるとの可能性が捨てきれなかったからだ。


『私を甘く見てもらっては困ります。それが脅しなのでしたら、なおさら屈するわけにはいきません』

『命がかかっているのです。これ以上、私の事情にあなたを巻き込むことはできません』

『イリス嬢は、私への評価がどうも低いようだ。私は騎士です。それを聞いたら、なおさら引くわけにはいきません──何より、私が、あなたを守りたいのです』


イリスは、涙をこらえるのに精いっぱいで、何も言えなくなってしまった。




応接室で談笑しながら、カリストの甥二人と姪に、ちょっとした風の魔法を披露している時だった。

廊下から、長靴が床をたたく軽やかな音が聞こえ、続いて扉がノックされた。

イリスは、足音で誰だか気づき、顔を上げた。


「お母様!」

「遅くなり申し訳ありません。イリスの母、エステラです」


扉を開けたのは、イリスと同じ黒髪に、赤い瞳を持つ、男装の麗人だった。

髪を一つに束ね、ひざ下までの長靴でさっそうと歩く姿は、一つ一つの動作に張りがある。


「ご無沙汰しております。アルベニス前伯爵」

「この度、魔獣に襲撃され、おけがをされたと伺っております。前伯爵としてお詫び申し上げます」

「そのことは現伯爵に何度も謝ってもらいましたよ。領内ではなく街道で起きたことですから、半分は王都の責任ですよ。お気になさらず」


公爵であるロレンソがにこやかに手を差し出すと、エステラも手を差し出し握手をした。

続いて、エステラは、公爵夫人アイダの手をとって、腰をかがめて指先に口づける。

男性の挨拶だ。

イリスの母とエクスデーロ公爵夫妻は、やはり顔見知りのようだ。

イリスの母は、イリスが十八になって成人するや、家督を譲って家を飛び出してしまった自由人だが、その前はきちんと社交活動をしていたらしい。


イリスは、母と公爵夫妻の挨拶が終わると、いてもたってもいられずに、母の胸に飛び込んだ。


「おや、私の姫は、もうすぐ母親になるというのに、ずいぶん甘えん坊さんだね」


優しく髪をなでる手が懐かしくて、胸が熱くなる。


「さあ、イリス。お前の旦那様を紹介しておくれ」

「はい、こちら、カリスト=エクスデーロ卿。ラルナ騎士団の副騎士団長を務めていらっしゃいます」

「カリスト=エクスデーロです」

「君は、あの時の……いや、なんでもない。娘をこれからよろしく頼むよ。この子は、しっかりしているようでいて、とんでもないところで抜けていたりする」

「お母様。カリスト様に余計なことを言わないで!」


先代魔法伯の登場で、家族の顔合わせが整った。


(この人たちが、私の家族になる人たち──この子の、家族になる人たち)


イリスは、そっとお腹に手をあてる。

心の中に、温かい気持ちが溢れ、自然に笑みが浮かぶのだった。





結婚式前夜、皆が寝静まった頃、イリスは、母の寝室に足を踏み入れた。


「お母様」

「いらっしゃい、イリス」


イリスが部屋を訪れるのを見越したように、テーブルには、カップが二つ置かれてあった。

幼いころ、眠れなくて母の部屋に忍んでいくと、必ず準備されていたホットミルクだ。


「私、もう子どもじゃないのに」

「お前は、いつまでたっても、私の子どもだよ。それに、おなかの子どものためには、これが一番だろう?」

「そうね」


カップを手に取り口をつけるが、聞いてほしいことがたくさんあって、何から話せばよくわからない。


「子どもは、カリストの子どもなの」


やっと絞り出したのは、その一言だった。


「お前は、小さいころから、彼にご執心だったからね。私が命を助けた子が、彼だろう?」

「うん」


イリスは、幼い頃、池に落ちたカリストが命の危機に瀕した時、母に助けを頼んだ。


「あの時、お母様は、魔女の血肉を使ったのね」

「ああ。幼い子どもが、命を落とすのが不憫でね……お前も、彼に使ったんだね」


イリスは、こくりとうなずいた。


「彼を愛しているのかい?」

「彼のためになら、なんでもしてあげたいの」

「そうか。なら、わかっているね。彼のためと思うのなら、この先何があっても、もう魔女の血肉を使ってはいけないよ?」

「……わかっているわ」


エステラは、いい子だ、とイリスをなで、子どもじゃないのに、とイリスは膨れる。


「それにしても、結果的には、お前が幸せになれたようでよかったよ。そう考えると、今回の法の改正はいい契機だったのかもしれないね。魔女がその在り方を変えるには、時に力技も必要だろうから。特に若いのに頑固な我が娘にはね」


そう言われて、イリスは、エステラに言っていなかったことがあることに気づく。


「あの、それなのだけれど……。実は、カリストは、知らないの。この子が自分の子どもだって」

「……なんでまた」

「それが……」



イリスが契約結婚の事情を話すと、エステラは、呆れたようにイリスを見る。


「まあ、折を見て、本当のことを言ったほうがいいだろうね」

「言えないわ! カリストには、好きな人がいたのに、私が引き裂いたのよ?」

「本当に? あんな目でお前を見ているのに?」

「それは、皆がいたから、演技してくれているだけよ。……悲しくなるからやめて」


イリスは、夫婦としてカリストと幸せになる未来はとっくに諦めている。


「カリストには、結婚後も恋愛は自由にしていいって言ってあるの。私たちの結婚期間はそんなに長くないつもりだし……それに、考えすぎかもしれないけれど、王弟殿下の悪意がカリストに向かっているような気がして……できるだけ早く別れたほうがいいと思ってるの」

「王弟殿下か。イリスに本気で恋しているのではないのかい? 私の娘はこんなにかわいいのだから」

「違うわ……王弟殿下も『魔女の血肉』を求めてらっしゃるのじゃないかと思っているの」

「代々、国王に口伝でしか引き継がれない内容なんだがね」

「そう……じゃあ、違うのかしら」

「イリスに付きまといだしたきっかけはあるのかい?」

「わからないわ。よくお声がかかるようになったのは、二年前からだけど」

「二年前、ねえ。……こっちでもちょっと調べてみるよ」


そう言うとエステラは、イリスの肩を抱きしめた。


「そら、結婚式前の花嫁は、もうそろそろ寝ないといけないよ」

「うん」


イリスは、ホットミルクを飲み干すと、席をたった。


「イリス、忘れてはいけないよ。私は何があってもお前の味方だよ。お前と、お前の子どもの」


扉を押さえてイリスを送り出してくれる母の言葉に、目の奥が熱くなる。

涙をこらえるイリスは、黙ってうなずくことしかできなかった。



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