天使か、女神か。いや、それ以上だけど語彙力が足りません
エリーたちのために用意された部屋には、様々な服が用意されていた。
華やかで煌びやかなものから、動きやすくも品のある衣服まで。
これまで家の懐事情に気遣っていたエリーは、ここぞとばかりに試着して回る。
内気な性格ではあっても、美しいドレスを纏い、華やかな舞台に立つことは乙女の夢だ。
しかし、アリアは違った。
目を覚ましてすぐ中庭へやってきたアリアの姿は、昨日とあまり変わらない。
選んで着た衣服は、シンプルすぎるものだった。
「……もったいない!」
エリーは思わず崩れ落ちる。
こんなにも素材が良いのに、どうして身綺麗にしないのか。
周りにいた女性神官たちも同意だったらしい。
皆でアリアを取り囲み、すぐさま着替えさせた。
「……アリア、さ」
アリアさま。
そう言いそうになった。
衣服を整え、ざんばらの髪を編み込んだだけで、アリアが別人のように美しくなったからだ。
天使か。
いや女神か。
尊いが限界突破して、脳が震える。
「……アリア、さん、どうして、こんなに綺麗なのに、どうしてこれまでちゃんとしてこなかったの……?」
「え?」
「も、もっと……」
「もっと?」
「もっと髪を整えて! 顔を見せて!」
「で、でも、肌は荒れてますし……」
「ちゃんとケアして!」
「そんな時間はなくて……」
「今日からはあります! アリアはもっと自分の良さを自覚して、自分を大事にするべきよ。それができるようになるまで、私がアリアの良いところを守ってあげる。わかった?」
「……は、はい」
アリアが素直に頷く。
その日からエリーは、アリアの身支度すべてを手伝うことにした。
髪の先から手足の指まで。
もう二度と、誰にも、アリアを貶めるような言葉を吐かせたりしない。
そうした想いからか。
別の世界の記憶を、今に重ねてか。
次第に、エリーの内気な性格は隠れていった。
生まれ変わったように美しくなったアリアと過ごすうちに、自分自身もまた別人になった気がした。
生まれ変わる想いを後押すように、セリアノ宮では聖女としての授業が開かれた。
授業は五日間にわたり、朝から晩までつづく。
地獄のようなスケジュール。
おかげで、自身の元々の性格を顧みる余裕をさらに失わせていく。
「……アリア、まだ勉強するの?」
授業が終わり、グッタリしているエリーの傍らで、アリアが明かりを灯す。
寝る間を惜しんで勉強するアリアの姿も、尊い。
「私は、学のない平民ですから……」
申し訳なさそうにアリアが目を細めた。
明かりの下でアリアが手に取っていたのは、子供向けの教本だった。
これまで教育を受けてこなかったらしいアリアは、文字がほとんど読めなかったのだ。
そのため五日間の授業は、すべて口頭で行われていた。
「そんなこと、気にしなくていいのに」
「そう言ってくれるエリーのことは信じているけど。でも、そう思わない人がいることも知っているから」
そう言って、教本に視線を戻すアリア。
エリーは心苦しくなり、アリアの傍へ寄る。
「……ねえ、アリア。私、勉強は苦手だけど、教えるのは……少しできるかも。だから一緒に、勉強しない?」
「いいのですか?」
「もちろん!」
エリーは笑顔で頷く。
すると、別の世界の記憶が脳裏に瞬いた。
別の世界のアリアとエリーは、この時ほとんど話をしていなかったらしい。
記憶の中のアリアは、みすぼらしい恰好をしたまま。
エリーは彼女から離れ、ひとりで眠ろうとしていた。
(……きっと、これも変えたかったんだ)
記憶の中のもうひとりのエリーが、叫んでいる。
その声に押され、行動を変えていく。
行動を変えるたびに、アリアの純真さがエリーの心へひびく。
(……絶対に守ってみせる。今度こそ)
聖女の使命は、世界を救うこと。
しかしエリーの中で最も大事なものは、アリアになった。
いや。
アリアを守ることが、やがて世界を救うことにつながるはずだ。
別の世界の記憶の、旅の果て。
すべてを失ったあの結末も、きっと変わるはずだ。
アリアと勉強をつづけながら、エリーは自らの想いを引き締め直す。
ふたりの間に揺れる、灯。
その明かりの中で、なにかが小さく頷いた。




