1-8話 美しい歌声
あれ・・・?
なんか、奇麗な音が聞こえる。
音? いや、これは歌ってるのか?
誰だろう。
聞いたことないや。
でもなんだか落ち着くというか安らぐというか、なんだか元気が出る歌だなぁ。
そういえば俺、どうしてたんだっけ?
たしか・・・
そこで俺はハッっと気が付いた。
そうだ、ルナティカスの攻撃を食らって・・・
「あれ…、何で? 動ける…、生きてるっていうのか? 俺。」
アイテム袋の中で何かが光っている。
確認してみると、それは先ほど入手した山猪の白牙から放たれた光だった。
後で知ったことだけど、山猪の白牙は装飾品として加工すると、1度だけダメージを肩代わりして装備者を守る効果が付与される。
発動条件は、即死効果のある攻撃を受ける、一撃で絶命するほど強力な攻撃を受けるが満たされた場合。
ただ、全てのダメージを肩代わりしてくれるわけではなく、死なないだけでほぼ瀕死の状態に留めてくれる。
装飾品として加工されていたわけでもないのに、その効果を発揮したのはこのダンジョンのダンジョンボスからのレアドロップだったことで何かしらダンジョンからの恩恵を受けていたんじゃないかと今では思う。
ただ、その時の俺には、あの山賊猪が守ってくれたとそう思えた。
「守られた…。俺は、まだ生きてる。」
起きたことを受け止め切れなくて放心していた俺は、ふとこちらを見つめる視線を感じた。
「ピィ?」
鳴き声のする方へ視線を向けてみると、そこには片目の潰れた見覚えのある鳥の魔物の姿があった。
そうだ、リンドーが逃がしたハミングバードだ。
「お前、なんで、どこか行ったんじゃ…、何でここに。戻って来たのか?」
そういえば、体の痛みがない。
「俺を治してくれたのか。お前、そのためにここに?」
ハミングバードは何も言わず、リンドーとルナティカスが戦っている方角を見つめた。
「そうだ、リンドー。助けに行かないと…」
助ける? 俺よりずっと強いリンドーがあんなに苦戦する相手に、俺が行って何になる?
さっきみたいに足手まといになるだけだ。
リンドーが何とかしてくれることを祈るしか…
「ピィ!!」
怖気づいた俺を叱るようにハミングバードが鳴き声を上げる。
か弱い声ではあったが、確かな意思を覚悟を感じる声だった。
ふとあの山賊猪の事が頭をよぎる。
もし、もしも、彼がここに居たらどうしただろうか。
怯え、震え、誰かの陰に隠れるだけを選ぶだろうか。
山猪の白牙を手に取る。
「命を救ってもらった恩があるもんな。お前のダンジョンで狼藉を働く奴を止めないとな。」
俺の決意を知ってか知らずか、満足したように山猪の白牙は輝きを失い崩れて消える。
ハミングバードが俺の肩に乗ってきた。
「道案内してくれるのか?」
「ピピピィ」
ハミングバードはついて来てと言う様に飛び立つ。
俺はそれを追いかけた。
するとハミングバードは、その美しい歌声をダンジョンに響かせる。
その歌声を聞いていると、なんだかすごく力が湧いてくるようだった。




