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1-7話 勝機

 なんだ…、夢か?

 

『リンドー。今日も基礎訓練をサボったのか。』


 ヴォルフ師匠…?

 

『師匠…、だって、俺もう基礎訓練なんかしなくてもいいじゃん。先生の弟子の中でもう一番強いのに。』

『確かにおまえの才能は抜群だ。いつか私を超える可能性すらある。しかしな、だからこそ基礎訓練を誰よりも行わねばならんのだ。』


 ああ、今ならわかるよ師匠。

 

『なんでさ!』

『強さは、基礎の上に積み上げられるものだ。基礎をどれだけ鍛えたかが最終的な強さに繋がるんだよ。』


 あ~、師匠ほんと基礎訓練しか教えてくれなかったなぁ。

 なぁ、師匠。

 俺、アレからずっとあんたが教えてくれた基礎訓練とスラッシュを磨き続けたんだ。


 あんたが俺に残してくれたものがそれだけだったからさ。

 ずっと、ずっと、それだけで、それだけにすがってしがみ付いて。

 俺は、アンタが託してくれたこの剣に見合うだけの強さにたどり着けたかい?


「うっ…、チィ、気を失ってたのか、情けねぇ。」


 スタンのやつは…、どうなった。


「まだ息があったか。人間如きがどうしてしぶとい。」


 正面から飛んできたルナティカスの追撃を、ギリギリで交わす。

 そうだ、今はこいつと戦闘中だ。

 スタンを気にしてられる状況じゃねぇ。

 

 コイツを倒すことに集中しねぇとな。

 短期決戦で最大火力を叩き込む。

 問題は、隙を作れるかどうかだがやるしかねぇ。


「オーバーブースト!!」


 スキル『オーバーブースト』は肉体に限界以上の負荷を与える代わりに、爆発的に身体能力を強化するスキル。

 基礎訓練を極め鍛え抜かれた冒険者にのみ使用可能なスキルだ。

 しかし、ものすごく消耗が激しくエーテル量が少ないと費用対効果を得られないスキルでもある。


「多少の身体強化程度で、どうにかなると思うな!!」


 ルナティカスは相変わらず真正面からのナメくさった力任せの攻撃を仕掛けてくる。

 さては、俺に攻撃を避けさせて逃げ道のないところに誘導しようとしているな?

 それなら、てめぇが言うその多少の身体強化がどれほどのモンか味合わせてやる。


「フンッ!!」

「なにぃ!?」


 ガキィィィン


 ルナティカスの攻撃に合わせ、真正面から大剣で切り上げ奴の爪を弾き飛ばす。

 そのまま切り上げた大剣を今度は振り下ろし、ルナティカスの顔面に一撃を入れ吹っ飛ばしてやった。

 多少はこれでスタンからの距離ができただろうか、生きててくれよスタン。

 

「我の防壁を突き破って、ダメージを与えてきただと!? いや、そもそも先ほどから我の攻撃に耐えるその大剣…、なぜそんなものが存在する!!」

「そりゃぁ。コイツはその昔、俺の師匠が聖獣様にもらったそれはそれはありがた~い大剣だからな。」


 まぁ、実際の所ホントかどうかは知らねぇけどよ。

 

「聖獣…」


 『聖獣』という言葉に反応したルナティカスのプレッシャーが段違いに強くなった。

 体にまとう邪悪なオーラの赤みが増していく。

 いよいよ本気ってわけか…。


「そうか、聖獣共の、その力ならば納得だ。もう容赦はせん。」


 さっきまでとは桁違いの力を感じる。

 力を高めきる前に、押し切らねぇとマスいな。

 

「なんだ。聖獣様と会ったことあるのかよ? 羨ましいねぇ。」

「ふん、その余裕こいた話しぶり、逆に焦っているのが透けて見えるぞ人間。」


 さっきまでとは比べ物にならない烈火の如く激しい攻撃が繰り出される。

 避けられねぇ、致命傷の攻撃を防ぐのがやっとだ。


「だいぶ苦しそうだな。さっさと楽になってしまえばいいものを。」


 こっちの動きが鈍ってきたのを見透かされた。

 

「へっ、まだまだこれからよ。」

「そうか、だが肩で息をしているのがバレバレだぞ。まぁ、貴様にはもう飽きた。」


 次の瞬間、背後に痛烈な痛みを感じる。


「がはっ!!」


 いつの間にか魔力の塊が背後に浮かんでいた。

 その塊が、矢のようなものを打ち出してくる。

 烈火の如く正面から攻めそちらに集中させて、その裏で背後を取って来るとは…


(感知できなかった…!? まさか、無属性プラーナか!!)


 魔法攻撃に使用される魔力のプラーナは、通常、炎や水といった属性に変化され攻撃に使用される。

 感知スキルを鍛えると、その属性に変わる際の変化を察知して攻撃を感じ取ることができる。

 しかし、変換される前の純粋なプラーナそのものは察知することができない。


 プラーナを何かしらの属性に変化するのは、簡単に言えばそうした方が燃費がいいからだ。

 その燃費を気にしないのであれば、変換しないプラーナつまり無属性のプラーナで攻撃した方がはるかに威力が高い。


「このまま切り刻んでやろう。」


 ルナティカスはニヤニヤと笑いながら、前後からの攻撃を仕掛けてくる。

 

「この野郎…」

「動きが鈍っているぞ、もっと動け。飽きたとは言ったが、こうも簡単では味気がないではないか。」

「注文の…多い…野郎だ。」


 奴は今、完全に勝利を確信している。

 勝ちを確認したやつは、最後は自分でとどめを刺しに来るもんだ。

 強く勝ち続けてきた奴ほどな。


 コイツはおそらく負けた事なんかないだろう。

 きわどい勝負はあった可能性はあるが、むしろそれを制してきた過去が慢心に繋がる。

 勝機はその一瞬にある。

 

「ぐっ…」


 ついに避け切れなかった攻撃が左太ももに突き刺さり、俺の動きが止まる。


「終わりだぁ!!」


 ルナティカスがその鋭い牙を突き立てようと、猛然と襲い掛かって来る。

 この瞬間を待っていた。

 俺は回避スキル『陽炎』を発動させ、攻撃を交わすとルナティカスの側面に回り、力を溜め続けていたパワースラッシュを横っ腹に叩き込む。


「喰らえ!!」


 間違いなく急所を抉った。

 倒し切れるとは思えないが、少なくとも無事ではないはずだ。

 だが、目の前のルナティカスは攻撃を受け消えてしまった。


「分身!?」

「正解だ。愚か者」


 とっさにかわそうとしたが、背後からの攻撃で肩を抉られる。

 コイツはまいった…、駆け引きでも上回られてやがるとはな…。


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