5-24話 受け継がれた冒険
「と、言うわけで―――。ボクはアップ君の先生になることにしました。スタン君の先生にはなれませんごめんなさい!!」
ギルドハウスで朝ごはんを食べている最中、突然飛び込んできたシルシア先生は、俺の先生じゃなくてアップの先生になると言い出した。
「え、それは、構いませんが・・・俺の修行と言うか訓練というか・・・その辺は?」
「安心してくれたまえ。話は付けておいた。デミーでいっぱい学んでおいで。」
「あ、そうなんですか・・・いつから?」
「ああ、来週。場所はボクが昔ちょっとの間だけデミーの教員をやっていたところだよ。移動の時間を考えるとあさってには出発だね。よろしく。」
「え、あさって!?」
「じゃーねー。」
そう言い残し、シルシア先生はどこかに行ってしまった。
いろいろやってくれてるのはありがたいんだけど、なんというか、その~
「一発ぶん殴りてぇ・・・」
「だろ・・・?」
「でしょ・・・?」
死んだ坂の目をしたリンドーとモル姉が俺の背後に立っていた。
なるほど、冒険していた間ずっとこんな感じで振り回されていたのか・・・
そして、俺がデミーに行くことになったと村中に知れ渡り、商人さんたちとの交易前ではあるけど俺生ために宴を開いてくれることになった。
みんなが宴の準備中、俺はデミーに行くための荷物整理などをしていた。
俺の実家の方はモル姉が引き続き管理してくれる。
ウィルとニーナもたまに掃除しに来てくれるそうだ。
ある程度準備を終え外に出ると、広場には宴用の料理を並べるテーブルが置かれ、準備中の料理のいいにおいが漂っていたりした。
向こうの方から、新しいリュックを背負ったアップがやって来た。
ガストさん、直してくれたんだ。
「スタン。デミーで勉強するってホント?」
「おう、何かそういう事になって、そうなった。アップはシルシア先生に教えてもらうことになったってホントか?」
「うん。ボクもいっぱいっぱい勉強する。だから、次あったときは二人とも冒険者だね。」
二人とも・・・。
その言葉に心が打たれる。
そっか、お前はお互いが一人前になるためにそうするって決めたんだな。
「そうだスタン。ボクねこれを君にあげたかったんだ。」
そう言うとアップは、リュックの真ん中にあるポケットから何かを取り出した。
「コレ、一緒に冒険はできなかったけど、ボクを助けてくれたニンゲンさんにもらったんだ。すごく強いニンゲンさんだったんだよ。」
アップが渡してくれたそれは、冒険者の腕輪のようだった。
「ボクが冒険者になりたいんだって話したら、自分達にはもう必要のなくなったものだからって。いつかボクと一緒に冒険をする相棒と一緒に使うといいよって。」
その話が本当なら、冒険者を引退した人たちからもらった冒険者の腕輪だろうか。
「じゃぁ、俺が卒業試験に合格したらそれを使わせてもらうからな。それまではお守りとして持っておくよ。」
「うん!」
俺がその腕輪の片方を預かった時、向こうから俺を呼ぶ声がして振り向くとウドンコさんがこっちを呼んでいた。
「あ、ちょっと俺ウドンコさんの所に行ってくる。アップまたあとでなー。」
俺はその場を後にした。
「アップちゃん。ちょっといい?」
「あれ? モルデンさん。こんにちは。」
「立ち聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえちゃったから。その腕輪をくれた人たちはどんな人たちだったの?」
「うーんとね。すっごく強くてとっても面白い人たちだった。両手に剣をもって風より早く駆け抜ける人と、一度に2つの魔法を使える人。」
一瞬。
瞳を大きく開いてモルデンさんは驚いたような気がした。
「そう。教えてくれてありがとう。その人たちはどこに行くって言ってたの?」
「聖獣様のお手伝いをしに行くって言ってた。」
そのとき、強い風が吹いてモルデンさんの口からこぼれた言葉は聞き取れなかったけど。
モルデンさんは、嬉しそうで、どこか寂しそうなそんな不思議な表情をしていた。
「やっぱり生きてたのね。クロスさん。ファウナさん。」
****
俺はこの時まだ知らなかった。
この冒険者の腕輪が、父さんの物でアップが持っているのが母さんの物だったって。
あの時、父さんと母さんの冒険が俺たちに引き継がれ、俺たちがその続きをするんだって。
そりゃぁ、父さんと母さんの冒険を受け継いだんだ。
これから先の冒険が、他の誰にもできない俺たちだけの大冒険なのも当たりまえさ。
これが、俺とアップの最初の冒険にまつわる物語。
このあと俺の冒険が始まったのかどうかだって?
それは、また機会があれば・・・な。




