5-23話 ボクの先生
何かを変えないといけない。
けど、何をしたらいいんだろう。
たぶん、ボクがその時そんなことを思ったのは、心のどこかにボクもみんなを守りたいって強く思い始めたからなんだと思う。
「おや、君は・・・、これは驚いた。」
ボクを見て、ポカンとしている知らないニンゲンさんが居た。
そっか、この人が村に来たっていうニンゲンさんかな。
「ハジメマシテ。ボクはアップ。」
「おお、人の言葉を理解して話せるんだね。すごいすごい。僕はシルシア。」
シルシアと名乗ったニンゲンさんはまじまじとボクを見て観察する。
そして・・・
「すごい! 何にもわからないや!!」
「え!?」
「ちょっと君、えっとアップ君。一緒に来てくれるかい? そうか来てくれるかありがとう!」
ヒョイッと持ち上げられ、そのままどこかに連れていかれる。
「ふ、不審者さんだぁ~~~~」
「はっはっは、こんなに堂々とした不審者がいるかい? 」
そのまま僕はリジェネア村の端っこの方の家に連れていかれたんだ。
「ぼぼぼぼぼ、ボクをどうするの・・・」
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。ちょっと調べるだけだから。」
うぇっへっへ、という正気をどこかに放り投げたような笑い声を上げながらボクを見つめる。
身の危険しか感じない。
「た、助けてスタ・・・」
想わず助けを呼びそうになったけど、それじゃだめだと思い直す。
ボクは、スタンに頼ってばかりじゃダメなんだ。
これからはボクが助けられるようにならなきゃなんだから。
「ボクは。ボクは強くなってスタンやみんなを守れるようになるんだ。これくらいすぐに逃げ出せるようじゃなきゃだから、ボクは逃げる!」
キリッとしてボクは高らかに宣言した。
「そうか、君は強くなりたいのか。でも、どうやって強くなるんだい?」
「えっと、それは・・・」
「まぁ、落ち着いておくれよ。怖がらせてしまったのは悪かったね。君という存在がとてもうれしかったんだ。」
いきなりそんなことを言われてもボクの頭の中には「?」がいっぱいだ。
「僕はね、一目見ただけでその人のことが分かっちゃうんだよ。最近はある程度コントロールできるようになったんだけど、見たくても見たくなくても勝手に目の中に入ってきて、知りたくもないことまでわかってしまうんだ。それは人に限らず、魔物やダンジョンの素材についてもそんな感じで見た瞬間に全部わかっちゃって、僕個人としてはとてもつまらないんだよ。」
「そーなの?」
「そうなんだ。だけどね、君のことはいくら見ても何もわからないんだ。」
シルシアというニンゲンさんはボクの事が何もわからないと言ったとき、凄く凄く嬉しそうだった。
「アップわかるかい? 僕は初めて、他人を知りたいと思ったんだ。君の事を教えてほしい。ボクが知らない分らない世界をどうか僕に与えておくれ。」
まるで、ボクと正反対みたいだってその時思った。
ヴェロンがやってくる前のボクと正反対で、なにもない。
この人は、ずっとずっと長い間、自分の知らない事を自分の目で見て見たかったんだなってそう思えた。
だから、ボクはお話しした。
ヴェロンと出会って世界がある事を知って冒険に出た事を。
冒険に出て、たくさんのニンゲンさんと出会って、お別れをして、託されて、そうやってスタンと出会った事。
「そうか、そういう事だったんだね。実はスタン君にもところどころ見えなかった部分があるんだ。それは君がこれから彼の人生に大きくかかわってくるからなんだろうね。」
「ボク、スタンの邪魔をしちゃうのかな。また間違えちゃうのかな・・・」
そうだったら悲しい、そうなったらいやだ・・・
「わからない。わからないよ。でも、だから、君は何かを変えようとしたんだろう。」
「でも、何をしたらいいかわからないんだ。間違わないようにするには、どうしたらいいのか。」
「実はね、人間も同じなんだよ。知ってる人に教えてもらったり、何度も練習してうまくできる様になったりね。それでね。僕、実は先生をやっていたんだ。ここにもスタン君にいろんなことを教えてあげて欲しいと頼まれてきたんだよ。」
「そうなの? じゃぁ、スタンはいろんなことができるようになるんだね。そっか、それならボクは必要ないのかな・・・」
スタンが一人でなんでもできるようになるなら、もしかしたらそれが一番いいのかもしれない。
一緒に冒険しようって言っておきながら、一緒に行けなくなっちゃうけどその方がスタンにとっては・・・。
「そうだねぇ、うまく教えてあげられるかわからないけど、僕は君の先生になってみたいって思ったよ。」
こうして、ボクはシルシア先生の生徒になったんだ。




