5-13話 憎しみの慟哭
自分が今どういう状態なのかサッパリだ。
視界が歪むし、何というか感覚がない。
今自分が息をしているのかどうかも不確かだ。
それでも体は動く。
動くならやることは1つだ。
意識をあの黒い魔物に向ける。
あいつの意識はまだアップの方にあってこっちには気が付いてない。
まるで、子供がオモチャに夢中になってるみたいだ。
ああそうか、そういう事か、あいつは生まれたばかりなんだ。
ルナティカスの野郎、何を企ててるんだこんなダンジョン作りやがって。
ニーナまで巻き込みやがって。
力を込めてあの魔物に向けダッシュする。
なんか、さっきまでと比べて段違いのスピードが出たような。
あれ、もう近くまで来た。
そんなに近かったっけ、まぁいいや。
「そこまでだクソ犬。」
一回尻尾を踏みつけてやってから、尻尾を掴んで背負い投げで地面に叩きつけてやった。
「ギャン!!」
驚いたのか痛いという感覚が初めてなのか、意外とかわいい鳴き声しやがる。
「なんだお前、意外と軽いんだな。ダンジョンと一緒で中身スカスカか?」
あ、動いたせいかまた変な感覚が・・・
目がグルグルする。
視界だけじゃなくて脳震盪を起こした時の様なグラグラした感覚もしだした。
「クッソ、こんな時に。」
その隙に、あの魔物は起き上がり激昂してこちらを睨んできた。
まぁ、まだ視界が定まってないのでそんな気がしたってところだけど。
「ワレ、ニクシミヲハナツモノ。コノヨノコトワリトセカイノサダメヲノロウモノ。」
「は、人の真似をして詠唱なんか始めやがった。」
「ツイエシセカイノザンシノナゲキヨ。ワガチカラトナリテメノマエノテキヲホロボセ。」
強力な魔力が、魔物の口に圧縮されていく。
ディノザウラスのバーストロアをも凌駕する力を感じる。
でも、不思議と怖さを感じなかった。
「ジュソノホウコウ。カースハウル!!」
繰り出された禍々しい魔力の塊に向け、力いっぱい握りしめた拳を突き出す。
見間違いか、俺の拳が淡い光を帯びているように見えた。
自分の魔力かと思ったけど、違う、確かに俺の体から出てきているんだろうけど、まるで誰か別の人の魔力が、それも複数混ざっているような・・・
そんなことこの際どうだっていい。
もっとだ。
もっと力が必要だ。
「もっとだ、もっと、もっと輝けぇぇぇぇぇ!!!!」
叫びと共に、光の奔流が拳から放たれる。
カースハウルを受け止めた拳にとてつもない衝撃が乗って来るが、ここでやられるわけにはいかない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
拳にさらに力を込め、輝きがその勢いを増してく。
そしてその輝きが、全てを癒すようにあたりに満ちていくのを感じた。




