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5-11話 ルナティカスの影

 ゆっくりと近づいてくる2頭目のディノザウラス。

 すぐにとどめを刺しに来ないで周囲を警戒しているのは、俺たちにまだ仲間がいて不意打ちされることを警戒しているのだろうか。

 ニーナは気絶してしまったようだ。


「どうにかしないと・・・」


 起き上がろうとした際、背負っていたリュックが背中から落ちた。

 どうやら、リュックの肩紐が切れてしまったようだ。

 叩きつけられた時も、このリュックがクッションの役割を果たしてくれたのかもしれない。


「アップごめんな。大事なリュックをダメにしちまった。」


 思えば、このダンジョンに来てからもう何度あいつに助けられたのかわからない。

 そのアップはと言うと、一緒に吹き飛ばされたときに俺たちより遠くに飛ばされてしまったようだ。

 あいつ軽そうだしな。


ーーもしもの時はここにあるアイテムを使ってニーナを助けてほしいんだ。ーー


 アップがそう言っていたことを思い出す。

 

「アップ、お前の宝物を使わせてもらうぜ。」

 

 この状況を打開する何かを・・・

 リュックを開けると、中には緩衝材の様なものが詰まっていた。

 じっくり探している暇はないので、その緩衝材事中身を全部外に出す。


「なるほどな、この緩衝材のおかげで助けられたのか。」


 そしてその緩衝材の中から出てきたのは、何かの液体が入った小瓶だった。

 ポーションか? いや、それにしては俺の知っているポーションとはあまりにも状態が違う。

 

「あ、そっか、これ、もう・・・」


 小瓶の底に砂鉄のような黒い粒粒が沈んでいたり、無色透明ではないはずのポーションが色あせて透明になっている。

 見た目は大丈夫そうな瓶でも、ふたを開けると鼻がひん曲がるような酸っぱい臭いや、吐き気を催すような甘い香りを発していた。

 つまり、これはもう本来のポーションとしての効果は望めないような状態という事だ。


「アップ、おまえとんでもなく長い時間いろんなところを冒険してたんだな・・・。」

 

 ポーションがこんな状態になるには、人間の寿命が何回尽きるだけの時間が必要だろうか。

 そんな長い冒険の中で手に入れた宝物を託されたのに・・・。


「ごめんな、アップ。俺、お前の宝物をちゃんと意味のあるものにしてやれないみたいだ・・・」


 悔しい、この後、俺たちがどうなったのかをアップが知ったら、その時アイツが何を思うかを考えると悔しくて仕方がない。

 この世界はどうして、こんなにも大事な思いを大切な思いを踏みにじり奪っていくのか。


「グルゥゥゥゥゥ・・・」

「グゥゥ、グガァァァァ」


 クサクサビリビリ玉で苦しんでいたディノザウラスも症状が治まって来たのか、もう一頭のディノザウラスと一緒に俺たちを取り囲んだ。

 ニーナにレヴィストーンを握らせ、何かの拍子に魔力が流れ込んでうまいことダンジョンの外に行ってくれることを願う。

 そして俺は2頭のディノザウラスと対峙した。


「ほら、食えよ。俺を食って腹でも壊しちまえ。クッソたれ。」

 

 その時、ピクッと何かに反応したディノザウラスがそのままその場に倒れた。


「スタン伏せて!!」


 遠くから聞こえてきたアップの叫び声に反射的に身を伏せると、鋭い斬撃がもう一体のディノザウラスを真っ二つに切断する。

 あっけなく、目の前の脅威は消え去った。

 いったい何が起きたんだ。


 俺の意識は状況を飲み込めずにいたけど、本能がそれに反応した。


「!! この魔力は・・・」


 忘れようもない。

 この禍々しい邪悪さをまとった魔力は、あいつだルナティカスの魔力だ。

 あいつがここに居る・・・。


 それを認識した瞬間、 俺の意識が恐怖で凍り付く。

 あの時はリンドーが居た。

 俺自身の状態もこうじゃなかった。

 

 今、ルナティカスを前にして助かるすべがあるのだろうか。





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