5-7話 目的を果たすための冒険
激しい咆哮が岩山の半分を抉っていく。
その圧倒的な破壊力に、俺は呆然と立ち尽くしていた。
こんなの、どうしたらいいんだよ。
こんな存在に自分が何をできるっていうんだ。
この場所で俺にできることなんて何があるっていうんだ。
自分の無力さに、体中の力が抜けていく。
「スタン! しっかりして!! ニーナの魔力はまだ感じるよ!!」
アップにケツを叩かれ、魔力を探してみると確かにまだニーナの魔力を感じることができた。
どうやら抉られたところには居なかったらしい。
「でも、だけど、どうするんだよ。あんなの俺たちじゃ、どうしようも・・・」
「スタン。目的を間違えちゃダメ。今ボクたちはディノザウラスを相手にしているんじゃなくてニーナを助けに来たんだよ。」
「でも、ニーナを見つけたって、あいつが居たら俺たちやられちまうよ。」
「大丈夫。ニーナを見つけたら全力で逃げよう。そのために毎日トレーニングしてきたの思い出して。魔物を倒すのが冒険じゃないよ。目的を果たして帰るのが冒険。行こう、ニーナが待ってる。」
アップに引っ張られ何とか足が動き出した。
ディノザウラスは、抉った岩山の残骸に目的の物がないか探しているようだ。
岩山の反対側からなら、気が付かれずにニーナを探せるかもしれない。
「アップ、反対側に回り込もう。」
「うん。そうだスタン。僕のリュックを預かって。」
「え、でもそれお前の宝物なんじゃ・・・」
「うん。大切な宝物だよ。だけど、ボクじゃニンゲンさんのアイテムは使えないから、もしもの時はここにあるアイテムを使ってニーナを助けてほしいんだ。」
「わかった。大事に使わせてもらうからな。」
ディノザウラスの反対側に回り込んで岩山の周囲を調べてみる。
「なんだか、この辺りは地面がしっかりしてないというか、崩れそうな感じがするな。」
「そうだね。やっぱりこのダンジョンは中身がしっかりしてないみたい。ダンジョンを作る時に使った魔力がちゃんと地形になってないのかな。箱は作ったけど中身をちゃんと詰め込んでないっていうか・・・」
「え、ダンジョンって作り方があるのか・・・?」
「わかんない。でもそんな気がするんだ。」
なんだかいろいろ気になったが、とにかく今はニーナの救出が先。
冒険者の腕輪で検索を掛けようとしたが、反応がなく魔力が切れてしまったようだ。
ニーナの魔力を探してみるが、さっきのバーストロアでまき散らされた魔力が邪魔をしてさっきよりも分かりづらい。
「あ、スタン、地面の下からニーナの魔力を感じるよ!」
「なんだって。もしかして、隠れた洞穴か洞窟の地面がもろくて地下に落ちちゃったのか!?」
「そうかも・・・、大変だぁ、怪我して動けないのかも!」
「地下じゃ、穴を掘るしかない」
その時、再び強力な魔力を感じた。
まさかディノザウラスがまたバーストロアで岩山を吹き飛ばそうとしているのか。
「どうしようスタン隠れなきゃ」
「か、隠れるって言ったってよぉ」
強力な魔力の余波に地面に大きな亀裂が入った。
もし、アップが言う様に目に見える地形部分はあるけど、その内側があまり作られてないなら
「アップ。イチかバチかこの亀裂に飛び込むぞ。」
「え、ここ!? どのくらいの深さかもわからないよ!?」
「そうだな・・・、まぁ、お前の体をクッションにさせてくれ。」
アップを抱きかかえ有無を言わさず亀裂に飛び込む。
「うわぁぁぁぁぁ。ボク落ちるのにがてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
亀裂に飛び込んだそのすぐあと、岩山はディノザウラスのバーストロアで吹き飛ばされたようだ。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~。スタンのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~。」
「・・・」
「おちるぅぅぅぅぅ~~~~~。あぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~。」
「・・・」
「もうだめだぁ~~~~~~。」
抱きかかえたアップが、ものすごい暴れている。
「アップ落ち着け。そんなに深い亀裂じゃなかったぞ。」
「ふぇ?」
飛び込んだ亀裂は、深さ2~3メートルくらいで着地の際に足がめっちゃしびれたが、まぁそのくらいで済んだ。
ただ、アップはずっと落ちていると思い込んでいてすげぇうるさかった。
「おちない?」
「落ちない落ちない。ほら、地面だろ。」
アップを地面においてやると、アップは地面に腹ばいになって大地を感じていた。
「こ~~わ~~かったぁぁぁ~~~~~」
どうやらアップにも苦手なものがあるらしい。
「とりあえず、ニーナの魔力を感じる方角に歩いていってみようぜ。」
「うん。」
アップはまだちょっとショックを引きずっているようだ。
何か声を掛けようとしたその時。
何かの視線を感じ、上を見上げるとディノザウラスがこちらを視界にとらえていた。
「やっべぇ・・・、お前が騒ぐから見つかったじゃないか!」
「ボクのせいだって言うの!?」
「あーもうわかったら逃げるぞ!」
アップの手を取り、ダッシュでにその場から走る。
ディノザウラスは小さく息をフッフッと吐くように、スナップロアを連射してきた。
地面を貫通して、スナップロアが俺たちの周囲の地面を抉る。
その衝撃でさらに足元が崩れ、俺たちは坂状になった部分を転がり落ちて行った。




