5-6話 ディノザウラス
ディノザウラス。
魔物としてのランクはBランクだが、一度暴れ出すと手が付けられない。
二足歩行の肉食系恐竜タイプの姿で、体長は3メートルほどと魔物としては巨大ではないがそのコンパクトな体には強靭なパワーが備わっている。
攻撃方法は、爪、牙、そして尻尾による薙ぎ払い。
確認されているスキルは咆哮と共に口から連続で衝撃波を飛ばすスナップロア。
スナップロアの強力版で、ディノザウラス最大の技とされている大きく息を吸い込み巨大な咆哮と衝撃波で破壊するバーストロア。
この魔物を短期で突破できるのは冒険者の中でも限られた指折りの実力者だけだ。
つまり、とても危険な魔物なんだ。
そんなとても危険な存在をですね・・・
「スタン、もう大丈夫そうだよ。あそこの岩の影まで行こう。」
「わかった。」
ディノザウラスが通り過ぎた岩陰まで音をたてないように移動する。
何ぜそんなことをしているのか?
ニーナを探すのが先ではないか。
ごもっともでございますが、しかし、これには理由があるのです。
まず、ニーナの居場所はディノザウラスの進行方向にあり、ディノザウラスより前に出たら戦闘になるのは必至。
すなわちゲームオーバー。
そして、ディノザウラスは強い魔物であるため、奴の近くにはアイツより強い魔物でもない限りは近づいてこない。
つまりディノザウラスの後ろを付ければ魔物とエンカウントしないという事。
なのでディノザウラス先導してもらいつつニーナに近づいていこうというアップの提案でこうなっています。
「ニーナにはだいぶ近づいてるはずだ。どこかに隠れていてくれればこのままディノザウラスをやり過ごして見つけられる。」
「うん。それにしても、あの子は何に苦しんでるんだろう。何かを探しているみたいな気もするけど・・・」
「わかるのかアップ?」
「ん~、わかるっていうかなんだかそう感じる感じ。」
ディノザウラスは確かに何かを探すように周囲を見渡している。
「魔物って何かを探すって事あるのか?」
「基本的には獲物を探すくらいしかないけど、たまにダンジョンに現れる強力な魔力を帯びたアイテムに惹かれる事もあるよ。」
「その魔力って、リンドーやモル姉みたいにめっちゃ強い冒険者の魔力でもそうなる可能性はあるのか?」
う~ん。とアップは短い手をアゴ? に当てて考える。
「その可能性自体はあるけど、その場合は戦いを求めてるから今回とは違う感じ。今のあの子はなんだか、魔力に惹かれてはいそうなんだけど、惹かれている魔力に苦しめられているような感じ。」
「魔力に苦しめられる? そんなことあるのか。」
「たまにあるんだ。魔力って本当はこの世界になかったものだったんだよ。だから、体に合わない魔力っていうのが時々あるんだ。」
「魔力って、最初からあったんじゃないのか。空気みたいなものだろ?」
「うん。今ではそうなんだけど、凄く凄くいろんな人たちが頑張ってこの世界に馴染ませたんだよ。だから、今回みたいにどこか歪な形で作られたダンジョンにはそういうこの世界に馴染まなかった魔力とかが色濃く出てきちゃったりするんだ。たぶんあの子はそれで苦しんでるんじゃないかな。」
「その、世界に馴染まなかった魔力って、アップには分るのか」
「ごめんね、わからない。この世界のモノではないからボクには認識できないんだ。」
ディノザウラスがまた移動したので、ゆっくりと俺たちも移動する。
すると、冒険者の腕輪がピコンと反応した。
「やった。すぐ近くにニーナがいるぞ。」
「ほんと! あ、ホントだ。ニーナの魔力を感じる。」
「ほんとかアップ。」
アップの言葉を信じ、俺もニーナの魔力を探してみた。
ダンジョンに漂っている魔力が強すぎるて邪魔してくるけど、それがむしろそれとは違う魔力をはっきりと認識させてくれた。
ニーナだ、ニーナがいる。
そして、何かを探していたディノザウラスも、ピタッと動きを止め何かを見つけたようだった。
ディノザウラスが視線を向けた先には岩山があり、ニーナの魔力を感じた場所だった。
もしかしたらニーナはあの岩山のどこかにできた洞穴や洞窟に隠れているのかもしれない。
「まずい。たぶんディノザウラスの目的はニーナの魔力だ。」
そう感じた瞬間。
ディノザウラスは大きく息を吸い込み、バーストロアを放つ体勢に入る。
「ヤメロォ!!!!!」
叫び声はディノザウラスの咆哮にかき消され、放たれたバーストロアは岩山の半分を抉り去って行った。