1-4話 戦士の波動
山賊猪との戦闘に入ってからしばらくたった。
やはり、ボスモンスターとしてブーストを受けているだけあって強い。
普段リンドーと稽古をしていなければ、手数や速さに圧倒されていたかもしれないな。
「流石にそこら辺の魔物とは違うってことか!」
テンションが高くなって思わず飛び出しちゃったけど、結構疲れてきた。
正直思ってた以上に強い。
ダンジョンボスのブーストってこんなに凄かったのか。
けど、ちょっと前からなんかあいつの動きがおかしい。
俺の攻撃を軽くさばいて受け流していたのに、今は後ろにも左右にも避けず俺の攻撃をその場で受けてガードしている。
何か狙いがあるのかもしれないな。
あまり踏み込んで攻撃するのは危険かもしれない。
ここまで間合いを詰めておいた苦労を考えると惜しいけど、仕切りなおすために距離を取る。
「よっと。」
俺が距離を取るのを見た山賊猪は、右手?(蹄)を突き出し『待て』のようなポーズをとった。
「え、なんだよ?」
すると、山賊猪はこちらに背を向け背後の草むらに進んでいく。
ガサゴソと何かをしていたが、草むらから出てくると片目の潰れたハミングバードの雛を抱えてでてきた。
他の魔物に狙われ傷を負ったのだろうか。
ハミングバードはその歌声に癒しの効果を持っており、その歌声で傷を癒すことができる。
冒険者が道中に出会ったハミングバードに窮地を救われるという話も稀にあって、言い伝えや小説の物語にも登場するパターンだ。
山賊猪は、そのハミングバードの雛を戦いに巻き込まれないよう遠くに移動させるつもりのように思えた。
「おいおい。ハミングバードの雛じゃねぇか!!」
「あれ、リンドーどうしたの?」
そこに何か異変を察知したのか、リンドーが駆けつけてくれた。
山賊猪の様子を観察して『あ~、そういうことか』と状況を飲み込んだようだ。
あのやろう、あの子を庇いながら俺の剣を受けていたってのかよ。
「よし分かった。ほら、これ使え。」
そう言うとリンドーはアイテム袋からポーションの瓶を取り出すと、山賊猪に向かって山なりに放り投げた
山賊猪は器用に蹄で瓶をキャッチすると、ハミングバードの雛を降ろしポーションを振りかける。
雛の出血が止まり、痛みが和らいだようだ。
「お次はこれだ。」
もう一つポーションの瓶を取り出すと、同じように山賊猪に放り投げる。
ていうか、山賊猪って人間が使うアイテムの使い方知ってるんだなぁ…
もしかして、これもダンジョンボスの特徴なのかな???
「そいつは、魔力回復用のポーションだ。コイツ用に調整したからエーテルの回復量を高めてちゃぁいるが、マナの回復も多少はしてくれる。そいつに飲ませてやってくれ。」
リンドーが俺の事を指さしながらそういう。
俺用に調整したポーションなんか作成してたのか…
そういう細かい作業は苦手な癖に。
「お前の回復用だったが、いいよな?」
「うん。」
「あいつ、お前より強いぞ。わかってるか?」
「わかってる。」
「そうか、なら俺が言うことはない。なんせ俺が稽古つけてるんだ。俺はアイツより何百倍も強いからな。」
山賊猪はリンドーに言われた通りハミングバードの雛に少しづつポーションを流し込んでやった。
少しすると、か弱いが雛が鳴き声を上げ動けるくらいには回復したようだった。
「よし、それじゃぁ、その雛は俺が責任を持って安全なところに避難させよう。任せてくれるか?」
山賊猪はうなずくと、雛から離れた。
リンドーを信用したというよりは、絶対に勝てない強者の意思に従ったという方が正しい。
その気になれば、リンドーはボスモンスターとはいえ山賊猪くらい瞬きする間に真っ二つにできる。
「じゃぁ、頑張れよスタン。残りのエーテル量とか体力とかちゃんと考えて戦うんだ。」
リンドーが雛を抱えてこの場を去った。
「よーし、じゃぁ仕切りなおしだ。これでお前も気兼ねなく戦えるだろ?」
俺は改めて愛用の剣を構える。
「フガァァァァァ!!!!!」
気合を入れなおした山賊猪が吠え、スキのない構えで俺と正対する。
普段魔物から向けられる、怒りや憎しみのような類のものじゃなかった。
闘志と誇りを感じる戦士の波動だった。
「いいなお前。すごくいい。俺、このダンジョンに来てよかったよ。」
残りの体力やエーテルの事を考えると長期戦は不利どころか敗北濃厚だ。
さっきまでのやり取りでわかる。
たぶん純粋な戦闘能力としてはあっちの方が上なのは間違いない。
「その差を、自分に残されたもので上回ることを考えろって言うんだろリンドー。」
じりじりとお互いに間合いを詰めていく。
勝負は次の一撃で決まる。




