5-1話 「かつて」と「今」
「うぉ、眩しっ」
久々にやって来たダンジョンは、日が暮れようとしていた。
目に差し込む西日に思わず手で太陽を遮る。
どうやら、草原と森林がメインで構成されたダンジョンのようだ。
「ス~タ~ン~~~~~~!!!!」
声の方を振り向くと、森の木の間からアップが大声でこっちを呼んでいる。
何やら焦っているような?
とにかく急いでそっちに移動を開始した瞬間。
「ギャギャーーー!!」
さっきまで突っ立っていた場所に、上空から急降下した魔物の鋭いくちばしが地面を抉っていた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
大急ぎで森の中に飛び込んで茂みに身を隠す。
上空から急降下してきた魔物は、おそらくライゼリクスだ。
昔いたハヤブサという鳥に似た姿で群れを成すタイプの魔物だけど、単体だったのはラッキーだった。
複数頭で攻撃されていたら体に風穴があいていたのは間違いない。
だが、森の中までは上空から攻撃はしてこないようだ。
「あ、あぶなかった・・・」
ホッと胸をなでおろす。
「スタン。ダンジョンでぼーっとするなんて危ないよ。」
普段のぽや~ンとした雰囲気から、少しピリッとした感じになっているアップがそこに居た。
「ああ、悪かった。」
「まだ油断できないよ。ほら、まだこっちの事を狙ってる。」
森の入り口から少し離れたところで、さっきのライゼリクスがキョロキョロしながらうろついている。
「くそ、早くニーナを見つけなきゃならないってのに。」
「落ち着いてスタン。ここはダンジョンなんだから心を乱しちゃダメなんだよ。ほら深呼吸~」
アップは小さい手をいっぱいに広げて深呼吸をする。
そうだ、ここはダンジョンで、俺はかつてとは比べ物にならないくらい力を失っている。
だから今このダンジョンで何ができるのかそれを考えて状況を打破しなきゃいけない。
「悪かったな。もう大丈夫だ。アップは一人でダンジョンを冒険する時どうやって魔物から身を隠していたのか教えてくれるか?」
「えっとね、一人の時は近くの魔力を探して怖い魔力を感じないところを歩いてた。」
「なるほどな。それなら俺もできるかもな。」
「それが、ボクもいつもみたいに魔力を探そうとしたんだけど、このダンジョンの魔力が濃すぎてわからないんだ。」
「なんだって。一応俺もやってみる。」
深呼吸をしてから、意識を集中させ周囲の魔力を感じてみる。
周囲に漂う魔力はアップが言う様にとても濃く、意識に重くのしかかってくるようだった。
これでは、何かを探したりするどころじゃない。
「なんてこった。ニーナの魔力を探すこともできないじゃないか。」
「うん。僕もニーナの魔力を探してみたけど全然ダメだった。」
「こんな時に、リンドーが居てくれたらなぁ。」
「スタン。しっかりしなきゃだよ。でも、ニンゲンさんのスキルが使えたらニーナもすぐに探せるのにね。」
「え? 何のスキルの事だ? 探知や探索のスキルは罠とか道を見つけるのには使えるけど、人を探すことに応用できそうなスキルってあったかなぁ。」
「そうなの? ボクと一緒に冒険してくれたニンゲンさんは、よく遠くのニンゲンさんとお話してたよ?」
「お話? 話をするスキルなんて・・・、あ! そうか、でかしたぞアップ!!」
冒険者の腕輪には、登録した相手の冒険者の腕輪と通信ができる機能がある。
それを使ってニーナと通信ができれば居場所が分かるかもしれない。
ポチポチと冒険者の腕輪に付いているボタンを押してみる。
「あれ・・・」
何も反応しない。
おかしいな、リンドーはこんな感じでメニューを表示したりしてたと思うんだけど。
「あ! そうだった!!」
「どうしたのスタン?」
「冒険者の腕輪って、装着者の魔力を使って動いてるんだった・・・どうしよう・・・」