4-3話 魔力欠乏症
ニーナからグレイスさんが倒れたと聞かされた俺たちは、すぐにグレイスさんの元に駆け付けた。
グレイスさんは作業中に倒れたのだろうか、機織り機のそばで倒れていた。
とても呼吸が苦しそうで、意識が混濁している。
とにかく楽な姿勢にした方がいい。
ウィルに手伝ってもらって、グレイスさんを寝室のベッドに運ぶ。
ウィルは薬と水差しを取ってきて、手際よくグレイスさんに薬を飲ませる。
ウィルが薬を飲ませると、グレイスさんは少し落ち着いて呼吸をするようになってくれた。
「これで、ちょっとは良くなったと思う。」
「ウィル。ありがとな。ところでその薬は何の薬なんだ?」
「うん。まえにグレイスさんが倒れた時に飲んでた薬。グレイスさん、生まれつき魔力の量が少なくてこういうことがあるんだって。」
ウィルから聞いた限りでは、その症状は先天的魔力欠乏症と呼ばれるものだ。
体内に魔力をとどめておくことができず体外へ放出してしまう体質がその原因。
体内の魔力が不足してしまい体が正常に動かせなくなる。
常にこの状態が起きるわけではなく、突如この状態が一時的に発生する。
この状態になった場合の対処法は、足りない魔力を外部から取り入れることだ。
恐らくウィルが飲ませた薬は魔力増強剤の類だろう。
「ウィル。薬はまだあるのか。」
「あとちょっとだけ・・・。モルデン姉ちゃんに頼んでたんだけど。」
魔力欠乏症の症状は一時的とはいえ、その期間は数分から数週間だったりとバラバラだ。
「薬の効果はだいたいどのくらいだ?」
「1日くらい。」
「それまでに症状が収まればいいんだけどな・・・。」
そのとき、俺とウィルの話を聞いていたニーナが泣き出してしまった。
「ニーナ。グレイスさんは俺に任せておけ。大丈夫だよ。すぐに良くなるって。いつもそうだっただろ?」
「でも、でも・・・」
「ここでお前が泣いていたら、グレイスさん心配でまた無理しちゃうだろ。」
「うん。わかった。ごめんなさい。」
ニーナを落ち着かせると、ウィルはニーナの手を引いて部屋を出て行った。
「アップ。お前もニーナについててくれるか?」
「うん。まかせて。」
「頼んだぞ。」
アップはニーナを励ましに行ってくれた。
残された薬の正確な量はあらためて確認しなきゃだけど、状況は一旦落ち着いた。
今のうちにできることをやっておいた方がいい。
「ウィル。俺は一旦ギルドハウスに戻る。もしかしたらモル姉が薬の在庫を用意してくれているかもしれないから確認してくるよ。」
ウィルにそう伝え、俺はギルドハウスに戻るとモル姉が仕事でまとめているノートを探した。
村の一人一人について、好きな物や性格などいろんな情報がまとめられている。
モル姉も俺と同じくらいこの村と村のみんなが大好きなんだ。
モル姉なら、おそらく薬が手に入らなかった場合を見越して代用できる何かを調べているはず。
「あった!」
グレイスさんについてのノートを見つけ手に取る。
プライバシーの侵害にあたるような内容も見てしまうかもしれないが、それがあった場合はモル姉のハンマーで俺の記憶を飛ばしてもらおう。
若干躊躇してしまったが、意を決してノートを確認した。
魔力欠乏症について。
魔力欠乏症は、人類が魔力を持つようになってから常に付きまとう症状である。
現在の人間は体内に血液を循環させると同時に、体の隅々まで魔力をいきわたらせることで生命活動を行っている。
血液とは違い魔力は循環せずに消費されるため、生命活動に必要な分の魔力を常に発し続けなければならない。
そのため、魔力の枯渇は生命の危機に直結する。
しかし、通常、生命維持に使われる魔力の消費量はわずかであり、この症状が発生する場合は何かしら別の症状と合わさることで起こるとされている。
治療方法としては、他者から魔力を流し込んでもらうか、魔力量の多いポーションや薬草などを接種することで次第に落ち着く。
一般的な薬としても流通しているためそれを服用するのが最も効果的。
「魔力量の多い薬草でいいなら、ミオティ草を探せば何とかなるな!」
解決策が見つかりそうで、ほっとした瞬間。
注釈が目に入った。
※よく似た症状で真逆の症状である魔力供給過多には注意。
こちらは、体内で生み出された魔力が消費しきれず肉体を壊してしまう症状。
魔力欠乏症と勘違いし、魔力欠乏症用の薬などを与えてしまうと逆効果となる。
予兆として、魔力欠乏症になりやすい体質の人が、数日普段よりも活発に活動している場合など体内の魔力供給量が異常上昇している可能性がある。
何らかの方法で速やかに魔力を放出させる必要がある。
「え、これって、まさか・・・」
俺がもしかしてと思ったとき。
ウィルが血相を変えてギルドハウスに飛び込んできた。
「スタン兄ちゃん!! 大変だよ。グレイスさんがものすごく苦しんで、いつもと全然違うんだ!!」




