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1-3話 ダンジョンボス

 順調にダンジョンの攻略を進めた俺たちは、ついに最深部にたどり着いた。

 冒険者認定試験のミッションには、ダンジョンの探索を行いマップ作製をするというものある。

 マップ作製は冒険者によって制作能力にだいぶ差があり、ものすごく個人差が生まれる部分だ。


 今回はある程度の仕上がりであれば達成と認められるんだけど、手を抜こうとするとリンドーに咎められた。

 今回のダンジョンは平原とちょっとした森の組み合わせでできたダンジョンだったので、見晴らしのいい部分は視界に収めた段階でマップを書こうとしたら、『ちゃんと歩け。ダンジョンは己の足でその全てを踏んでこそ意味がある。』と真顔で詰め寄られた。


 『歩いてそこに罠があったらどうするんだよ。』と言い返してみたけど、『そこに罠があったという情報が書けるじゃないか。』と何を馬鹿なことをと言わんばかりに呆れられた。

 この時に気が付いたよ、リンドーはダンジョンの全てを己の足で踏破しないと死んでしまう不治の病に侵された類の人間。

 厄介マッパーという、己の命よりもマップを埋める事に重きを置く狂気に魅入られた存在だ。

 噂には聞いていたけど実在するとは…、それもよりによって身内に…。


 おかげでだいぶ余計な時間と労力が発生した。

 見つけた罠に気を取られているうちに、魔物とは呼べないくらいの危険性の低い小動物に食料をいくつか持っていかれて業腹である。

 お昼に差し掛かっていたので、腹が減ってきたにもかかわらず食べる飯がない。


「あのゴミリス、あのクソ鳥、次あったらぶった切ってやる...ッ!!」


 と、その時、リンドーが少し先の方を指さした。

 

「見えるか、スタン? あれがこのダンジョンのボスだ。」

「うん。見えるよ。」

 

 リンドーが指をさす先に1体の嫌なオーラを纏った魔物がたたずんでいた。

 それは山賊猪という魔物。

 人間のような体をしているが、手と足は蹄で格闘主体の攻撃を行う魔物だ。

 

 山賊猪は通常低レベル魔物に分類される。

 しかし、ダンジョンボスとなると話は別。

 ダンジョンボスはダンジョンによって力を与えられているので、かなり能力にブースト(強化)が掛かっているからだ。

 

 ダンジョンの魔力的リソースを与えられているので、通常の状態と異なり能力だけでなくその行動も特異な点がある。

 例えば、通常魔物はエサとなる別の魔物やダンジョンの食物などを求めて徘徊するけど、ダンジョンボスになったモンスターはダンジョンの最深部に自分のテリトリーを作って生活をする。

 

 また、冒険者がダンジョンボスを倒すとダンジョン内の魔力リソースが消えることになり、結果ダンジョンボス討伐後しばらくの期間を置いてダンジョンは崩壊し消滅する。

 ダンジョンはそういう仕組みだ。


 音を立てるなよ。俺にそう言うとリンドーはこの場から少し離れる事を指示する。

 少し離れたところでリンドーはダンジョンボスの魔物がこちらに気が付いていないか警戒をしつつ話を進める。

 

 「スタン。冒険者認定試験の達成条件は、魔物のドロップ品を含めた指定アイテムの収集と1階から最深部のボスゾーンまでのマップ作製。つまり、ここにたどり着くまでにアイテム集めは終わっているから、ここまで他とりついたことで冒険者認定試験の内容は達成している。冒険者協会はボスの討伐までは求めてない。」


 リンドーはミッションの指示書を確認しながら、目標は達成していることを告げる。

 ダンジョンボスの討伐は、冒険者としての能力を測るにはある意味うってつけだ。

 冒険者協会がそれを資格試験に盛り込んでいないのは、ダンジョンボスの攻略は駆け出しの冒険者程度では到底不可能と考えられるから。

 さらに、ダンジョンボスを倒した後のダンジョン崩壊時は魔力バランスが極めて不安定で何が起こるか未知数のためだ。

 

 しかし…

 

「そういうわけだが・・・、アイツどうするんだ? スタン。」


 と、このまま帰るわけないよな? という感じでリンドーはニヤッと笑いながら言う。

 そんなの、答えは一つだ。

  

「とーぜんブッ飛ばす。冒険者が強敵とお宝を前にして帰れるかってんだ!」

「よしよし。そのいきだ。まぁその前に準備をしておけ、まずは回復・・・」

「うおぉぉぉぉ!! ショウブダァ!!」


 テンションが有頂天MAXになった俺はそのままダンジョンボスの目の前に飛び出す。


「まてスタン! お前、回復…」

 

 リンドーが慌てて何かを言っていたような気がしたけど、どうせまたいつもの小言だろう。

 年を取ると説教ばっかりになるって言うのはほんとなんだなぁ。


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