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4-1話 日常はいつもそこにあって脆く儚く

 リジェネア村から交易拠点へ警備を出すことになってから数日。

 村に残ることになった俺は、複数の畑の見回りや収穫を任されてあっちこっち走り回っていた。

 ちなみにアップはグレイスさんのお手伝いをしている。


 なんか、俺がいない間にグレイスさんがやっている洗濯の作業に興味が出て手伝わせてもらっているらしい。

 グレイスさんは凄く助かってると言ってくれた。

 大丈夫なのかウィルやニーナにも聞いてみたけど、アップは汚れを落とすのがすごく上手と褒めていたので大丈夫だろう。


 一方俺はと言うと、畑の見回りはまだしも収穫なんてやったことがないので慣れない作業に手を焼いている。

 なにせ収穫できる状態になっているかどうかを見極める経験がないからね。

 だけど、収穫できる状態の作物からは魔力を感じることができることに気が付いたので、それに気が付いてからは見極めが少し楽になった。


 魔力を感じるのにかなり集中力を使うので、かなり疲れるのが問題だ。

 結構時間もかかってしまう。


「ふぅ。ここはこのくらいでいいかな?」

  

 収穫した野菜を荷車の荷台乗せて引く。

 すごく重いけどこれも修行だと思えばやりがいもある。

 カイさんからもらったノートには、傷を治すだけでなく肉体の回復力を高める薬の作り方も書いてありそれのおかげで筋肉痛なども何とか許容範囲だ。

 

「次は果物の畑に行かなきゃ。」


 果物の畑に到着すると、そこにはグレイスさんが来ていた。

 ニーナやウィルと一緒に果物を収穫している。

 もちろんアップもだ。


「あれ…、みんなどうしたの?」


 俺が驚いていると、ウィルが近寄ってきた。


「アップがいっぱい洗濯物を奇麗にしてくれたから今日の分はすぐに終わっちゃったんだ。だからスタン兄ちゃんを手伝いに来た。グレイスさんが兄ちゃん果物の収穫なんてやったことないから大変だろうって。」


 ウィルは汗だくになっていたので、グレイスさんが頑張りすぎないように一生懸命手伝っていたのだろう。


「ウィル。グレイスさんを手伝って偉いぞ。」

 

 ウィルに汗を拭く用のタオルを渡す。


「まーね。俺だって一応ニーナの兄ちゃんだから。たまに手伝ってたからやり方は知ってるしね。」

「え、たまにって、前から手伝いやってたのか? 言ってくれれば俺だって手伝ったのに。」

「ああ、いいんだよ。スタン兄ちゃんは冒険者になる修行があったしさ。」


 そっか、そうだったんだなぁ。


「なぁ、ウィル。俺、ステータス無くなってそれまで来てたいろんなことができなくなったけど、そのおかげで気づけたことや出来るようになったこともあるんだって最近少しわかったんだよ。」

「そーなの? じゃぁ、ステータスが戻ってきたらもっとすごいスタン兄ちゃんになるね! スタン兄ちゃんはやっぱすげぇなぁ。」

「そっか、そーだな。」


 たまにウィルの中にある俺のイメージどうなってんの…? って思うんだよなぁ。

 どーすんだコレ。

 いつかメッキが剥がれたら俺もう口きいてもらえなくなるんじゃない?


 まてよ~? ウィルがこの調子という事は少なからずニーナもそういう傾向になっているのでは…?

 何とかしないとなぁ、何とか二人からの信頼を裏切らないように冒険者にならないとだ。

 この世界にまた大事な物を奪われるわけにはいかない。


 とは言え、今はセラピアとの大事な交易を滞りなく進めるために任された仕事を全うしなくちゃ。

 信頼と信用を築くのは100の時間と100の実績が必要になるけど、それを失うのは1にも満たない一瞬の時間と不確かな1つの出来事で十分だ。

 それは別に俺の実体験に基づいたものではなく、何かの本か誰かの話を聞いたんだと思うけどそれはたぶんきっとそうだと思う。


 だってこの世界はすぐに何でもかんでも奪っていくって事をよく俺は知っているんだから。

 ウィルと一緒にグレイスさんの所へ向かう。

 ニーナも一生懸命手伝っているようだった、だがウィル程は上手にできてないように見える。


「グレイスさん。大丈夫なんですか?」

「ええ、アップちゃんが手伝ってくれて今日の分はすぐに終わっちゃったのよ。」

「それなら、家でゆっくりしててくれてよかったのに。」

「こんな時に楽なんてできないわよ。」


 いいからいいから気にしないでと言うグレイスさんは確かに珍しく体調がよさそうだ。

 荷車の荷台に果物を乗せて今日の収穫はおしまい。

 あとはこの収穫した作物たちをそれぞれちゃんと定められたところに保管していく。


 作業としてそれほど難しくはないけど、ちゃんと正しく保管しないと美味しさは失われてしまうのでこれも気を抜くことができない。

 意外なことにこういう事をウィルはテキパキとやる。

 反対にニーナは意外とおおざっぱで間違うたびウィルに指摘を受けていた。


「ニーナ。コレはこっちの籠。」

「え、でも同じ形だよ?」

「色が違うだろ? だから混ぜちゃダメなんだ。」

 

 うーむ。ウィルの奴めしっかりとお兄ちゃんをしているではないか。

 作物の保管が終わり、みんなで帰って晩御飯を食べにグレイスさんの家に向かう。

 グレイスさんの家ではアップがソファーに横になって寝ていた。


「アップ。そんなところで寝てちゃダメだろ。」

「スタンちゃん。いいのいいの。アップちゃんお手伝いしてくれて疲れちゃったみたいだから。すごいのよ。アップちゃんが汚れを擦るとみるみる汚れが落ちていくんだから。」

「え~、それ本当なんですか。まさかアップに洗濯の才能があったなんて。」


 なんか魔力枯渇で気絶したときに似てる気がするけど、なんかスキルでも使ってるのか? でも洗濯のスキルなんてあったかなぁ???

 その後、晩飯の匂いにつられたのかアップが起きてきてみんなでご飯を食べた。

 暖かくてわりと充実した一日だと思う。


 正直、こういう毎日が続いて欲しいと思った。

 この世界がそんなに優しいはずがないのに。

 そしてその時は来やってくる。



 


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