3-15幕間 貴方は私の味方だから
それは突然のことでした。
私はもうすぐやって来るお誕生日を楽しみにしながら、いつものように兄のウィルと過ごしていたことを覚えています。
「お父さんとお母さん早く帰ってこないかなぁ~。そしたらお誕生日お祝いしてもらえるのになぁ~」
「ニーナ。最近ずっとそれしか言わないなぁお前。なんか他の事ないの?」
「だって楽しみなんだもん!」
誕生日を祝ってもらうことを心待ちにしている私の様子に、兄のウィルは呆れっぱなしでしたね。
その年、私が両親にお誕生日プレゼントとして希望したのは、聖獣様の大きなぬいぐるみで職人さんが1つ1つ丁寧に作り上げるため高価な品でした。
両親があのクエストを受けた理由を、私は私が欲しいとねだったぬいぐるみの資金を得るためだと思って、だから両親が帰ってきたら買ってもらえると思っていたのです。
両親がクエストを受けてダンジョンに行っている間、私たち兄妹の面倒を見にグレイスさんが来てくれていました。
いつも優しく微笑みかけてくれるグレイスさんの事は、私も兄のウィルも大好きで今年は一緒にお祝いしてくれると言ってくれたことも私が誕生日を待ち遠しく思っていた理由の一つです。
誕生日当日、両親は帰ってきませんでしたが、私は気にしていませんでした。
クエストの状況によっては多少前後することはよくあったので、今回もそうなのだろうと思っていたのです。
ですが、そのまま両親は戻らず何日かが過ぎた日、私は耳にしてしまったのでした。
「なあ、お前の父ちゃんと母ちゃん、悪いことしたのか・・・?」
「え・・・?」
いつも集まって遊んでいた中の一人から、そのような事を聞かれ私は何も訳が分からずそれ以上何も言えませんでした。
彼の名誉のために伝えておきますが、それは『本当にそんなことがあったのか? 自分はとてもじゃないがそうは思えない』という類の問いかけであったことは確かです。
ですが、私はそれで不安になってしまいそのまま家に帰ると、グレイスさんが荷物をまとめていていました。
そしてグレイスさんに連れられこの町を出ることになり、その途中で出会ったモルデンさんの勧めでリジェネア村へ移ることになったのです。
リジェネア村へ向かう道中、私は思い返していました両親が『悪い事』をしてしまったのかという事を。
もしそうだとしたら、私が高価なプレゼントを望んでしまった事がいけなかったのかと自分を責めたのです。
リジェネア村へたどり着いてから、それからはずっとグレイスさんに迷惑をかけることになってしまいます。
村の方々はよくしてくださいました。
ですが、両親の話題だけはとにかく避けるところがあり、それは村の大人からの配慮だったのですが、私は両親が悪いことをしたから話すことができないのだとそう思い込んでしまったのです。
私は、これからは望まず大人のいう事をよく聞いていい子にしようと思うようになりました。
そうすれば、いつか両親が帰ってきてくれるとそう縋ってしまったのです。
兄のウィルは、そんな私の心を見透かしてか、リジェネア村へ来てから少ししてそれまで以上に自由に振舞うようになりました。
まるで、私に『お前のせいなんかじゃないんだから、もっと自由にしろよ』と言っているように。
本当のところがどうかは、わかりませんけどね。
なにせ、あの兄ですから。
そんな風に、日に日に人とかかわることを避け、誰とも話さなくなった私のところにあの人はやってきました。
たしか、モルデンさんからの届け物を持ってきてくれて、ちょうどグレイスさんが不在だった時ですね。
一度会って挨拶くらいはしてたんですけど、私誰とも会いたくなくて居留守を使うつもりだったんです。
でも、私、鍵をかけ忘れちゃってて・・・
「あれ、開いてる。あ、君、ニーナちゃんだったっけ? この前ちょっとあいさつしたけど覚えてる? 俺スタン。」
玄関のドアを開けて勝手に家に上がり込んできたスタンさんは、頼まれていた届け物を置くと私に話しかけてきました。
「ねえ、君のお父さんとお母さんって冒険者だったんでしょ?」
「え? あ、はい。」
「どんな冒険者だったの? 俺の父さんと母さんも冒険者で俺も冒険者になりたいんだけど、何ていうか参考にならないというか・・・だから教えて欲しいんだ。」
それから結構アレコレと聞かれそれに何とか答えて、スタンさんが満足したのか『またね~』って帰って行いきました。
この辺は、ちょっとアップちゃんに似てますね。
私は久々に人と長時間会話をしたのでなんかすごくつかれて、久々にぐっすり眠ったことを覚えています。
その日から数日後にまたスタンさんは家にきました。
たぶんモルデンさんにお願いしたんだと思うんですけど、両親がどんな冒険者で過去にどんなクエストを達成していたのかとかを調べて話してくれました。
私はその時初めて両親がどのような冒険者活動を行っていたのかを知り、久々に両親に会ったような気がして泣いてしまったんですよね。
そこに運がいいのか悪いのか、兄が帰って来まして。
泣きじゃくる私を見るや否や、スタンさんに殴り掛かっちゃって・・・
そのまま家の前で大げんかが始まっちゃったんです。
それをきっかけに兄とスタンさんは仲良くなって、私も兄に連れられて一緒に遊ぶようになりました。
その際、私たちの両親の話やスタンさんの両親の話をするようになって、私はスタンさんは両親のことを悪く思ってない味方なんだと感じて、この人は私の味方で居てくれると・・・そう、思っちゃったんですよねぇ・・・。
なにせ、子供だったんで、あははは・・・




