3-13話 帰り道
リジェネア村への帰り道はカイさんが同行してくれることになった。
その際、魔力の感知を鍛えるために目をつぶりながら帰ってみようとカイさんが言い出して、俺は目をつぶって走っている。
先行するカイさんが魔力を放出しながら走るので、それを感じ取りながら追いかけるという訓練だ。
ステータスのない俺がカイさんの速度について行けるわけもないのだが、カイさんが試しに補助スキルが俺に効果あるのかどうかやってみようと『スピードプラス』という素早さを上昇させるスキルを俺に使ったところなんとスキルによって素早さがちゃんと上昇したのだ。
その他にも攻撃力を上昇させる『アタックアシスト』と防御力を上昇させる『ディフェンアシスト』などを試してみたが、そちらは効果がなかった。
カイさん曰く、攻撃力や防御力というのは装備品によって備わるものなので装備ができてない今の状態では効果を感じるほどではないのかもしれないとのことだ。
なので、肉体そのものに作用する補助スキルなら効果を得やすいんじゃないかと解説してくれた。
肉体に作用するスキルは、スピードプラスのほかに筋力を増強する 『マッスルプラス』があるがカイさんはこのスキルを取得していないので確認はできなかったけど、俺にとっては希望を感じる出来事だった。
カイさんとの特訓は、最初あさっての方向に行ってしまったりしていたけど、カイさんに方向を修正してもらっているうちに何となくカイさんの魔力と思われるものが感じ取れるような気がしてきた。
それで方向自体はだいぶ合ってきたんだけど、そうすると今度はその途中にある障害物にぶつかるようになって藪に突っ込んだり、その辺の木や岩や穴にぶつかったり引っかかったり足を取られたりと散々な状態になってる。
ちなみに、ニーナへのお詫びの品である押し花のしおりは、カイさんが落っことしたら大変なので預かっておくと言うので預けてある。
「そもそも、木や岩に魔力なんかないんだから感じて避けられるようになるわけないじゃないか!!」
「ま、今のスタン君にそこまで求めるのは無理だろうねぇ。」
ひどい。
わかっててやったんだこの人。
俺に何の恨みが…………、アレ、心当たりしかないな。
たまに交易拠点来た際、なんやかんやカイさんに迷惑をかけていたことを思い出す。
アルと一緒にかくれんぼして倉庫中をグチャグチャにしたり、おなかが減って勝手に食料をいただいたり…
これが、因果応報ということか。
「なーに、一度コツを掴んでしまえば意識しなくてもできるようになるよ。」
「え~、それ本当? 全然そんな気しないよ???」
「まぁ、そうなるまではそんなもんだよ。」
そのごも、あっちこっちぶつかったりしながら、何とかリジェネア村にたどり着くことができた。
村の入り口ではアップが待っていてくれた。
「スタ~~~ン。お~か~え~り~。」
こっちに気が付いたアップが、相変わらず丸っこい体と同じくらいのバッグを背負いながらタタタタっと走って来る。
なかなか可愛らしい動きだ。
そんなことを考えていると、強烈なパンチが俺の右頬に炸裂し俺はきりもみしながら宙を舞った。
「ゲフゥゥゥゥ。」
何事かと右頬を押さえながら、視線をやるとそこには怒りのオーラを身にまとったスラの介スラ太郎スラ座衛門の姿が。
「いきなり何するんだよ…」
何も言わぬスラの介スラ太郎スラ座衛門は、体を変形させて作ったムキムキの腕を振り子のように振ってフリッカースタイルで俺の方ににじり寄って来る。
ヤバイ、よくわからないけど殺されるかもしれない。
「だめだよ。」
と、俺とスラの介スラ太郎スラ座衛門の間にアップが入って来る。
スラの介スラ太郎スラ座衛門を止めたアップは俺の方に向き直るとなぜスラの介スラ太郎スラ座衛門がこれほどまでに怒っているのかを教えてくれた。
「スタン。この子はスタンがニーナを泣かせたから怒ってるんだよ。」
アッ。
なんという完璧で究極でごもっともな理由…
「こ、この度は、私スタン・トラヴェリテの浅慮が招いた失態と心得ております。私にそのつもりは御座いませんでしたが、結果としてニーナの心を傷つける愚かな行いであったと今は反省しており、二度とこのような事を起こさぬよう努めてまいりますためどうかお怒りを鎮めください。」
姿勢を正し、地面に手をついて俺は平謝りをした。
「!!!!!?????」
これにはスラの介スラ太郎スラ座衛門も驚いたらしく、強く殴りすぎたかと俺の右頬をナデナデしたり頭をヨシヨシしたりしてきた。
もっとベタッとしているかと思ったら意外とスベスベな肌触りで結構気持ちがよい。
そのやり取りにカイさんは怪訝な顔をした。
「スタン君。今のリジェネア村では魔物と暮らしているのかい…?」
カイさんにしては珍しい事を気にしているなと思った。
「あ~。カイさんは知らなかったよね。この二人はつい最近村で暮らすようになったんだ。」
「そうなのか。それにしても話す魔物が居るという事は聞いていたけど実際に会話ができる魔物と出会うのは初めてだ。」
カイさんは少し警戒しているようだ。
それは、普段交易拠点を魔物から守っているのだから当然と言えば当然だと思うけど、それだけじゃない何かを俺は感じた気がした。
「はじめまして。ボクはアップ。ニンゲンさん。お名前なんて言うの?」
「え? ああ、えっと、…私はカイだ。」
「アップ。カイさんはなリンドーも認める槍の使いてなんだぜ。」
「え~。すごいね! 」
「あはは、ありがとう。だけどスタン君。ここで油を売っていていいのかい?」
そうだった、ニーナに謝りに行かなくちゃ。
「アップ。ニーナに謝りに行きたいんだ。」
「うん。ニーナはこっちだよ。」
アップがニーナのいる方へ走り出した。
相変わらず落ち着きのない元気なやつだ。
さて、うまく謝れるだろうか…




