3-7幕間 世界の理を知る者
蒼ノ国アズーラ。
そこは、聖獣の1体である青龍を奉る国の首都。
青龍はその体に流れる魔力を水に溶かし、この世界に魔力を根付かせたと伝えられている。
それまでの人類は魔力を持たず魔物への対抗するすべがなかったが、水に溶け込んだ青龍の魔力を少しずつ取り込むことで徐々にその力を取り込みやがてスキルが使えるようになり、自らの力で魔物と戦う術を得た最初の人々が現れた国だ。
そのため、アズーラの民には青龍によって選ばれた誇りある民の自覚があり、ちょっと他の国に対して高飛車になる傾向がある。
あるのだが、戦う力を最初に授けられた民として他国の人々を守るために各地へ散っていった面倒見のいいほっとけない性格の人々であったため、頼られると頑張っちゃうちょっとややこしい国民性を持っていらっしゃる。
もちろんそれは、この国の冒険者協会代表として仕事をこなすノーダスもその一人だ。
執務室で机に向かって報告書を読み、対応方針を決め連携を行う必要がある関係者たちを繋ぎ方針を伝達する。
表立った仕事はそこまでだが、彼の場合任せた仕事で問題が起きていないかを把握することを怠らない。
しかし、把握した問題に対し自ら解決に乗り出すことはない。
ノーダスは自分が手を貸せば各担当がもっとスムーズに各仕事がうまくいくことは重々承知していたが、それをやっては成長につながらないと考えるタイプで、彼が問題の把握を怠らぬよう気を付けているのは起きた問題に対し適切に責任が取れるようにするためだ。
うまくいかなかった事、何かミスをしてしまった事、それすらも本来は正しく経験とできるのが人間と信じている。
そんなノーダスにとって、今行を探している人物は何とも理解ができない存在だ。
探し始めて早数週間、一向に足取りが掴めない。
捜索を任せた部下たちも成果が出ない事で少々プレッシャーを感じているかもしれないと思うと、一旦この件は個人的に継続して本来の業務に戻らせた方がいいかと思い始めていた。
「ステータスを失う…か。知れば飛びついてきそうな話なんだがな…。」
「何それ、すっごく面白そう。」
「シルシア・オブセクルス!」
「わーお、フルネームで驚かれるとなんかうれしくなっちゃうね。」
いつの間にか博識の称号を持つ冒険者シルシア・オブセルクスがそこに立っていた。
「ノーダスさん。仕事に熱中しすぎるのもよくないよ。あ、今は代表って呼んだ方がいいんだっけ?」
「いや、今は二人だけだ。構わんよ。そもそもお前がもっと早く来てくれればここまで仕事がたまることもなかったがね。」
「それは失礼。で、さっきの話はどういう事?」
シルシアは興味津々でノーダスに尋ねる。
「聞けば協力してくれるのか? 私がお前を探していたのは知っているのだろう。」
「それはどこまで話してくれるかにもよるかな。」
「お前相手に隠し事など、それにもう知ったのだろう?」
『博識』シルシア・オブセルクスだけが持つスキルは見た対象を瞬時に理解する力『神の目』を持っている。
何が好きか何が嫌いか、何を求めているのか何を知っているのか、全てを理解してしまう。
その力はダンジョンで脅威となる魔物の対処方法や、ダンジョンの環境にどう適応するかなど彼一人でのダンジョン探索を可能にするほどだ。
そんな彼が求めているのは、自分が見ても何もわからない存在。
この世界の理のその外側に居る存在だ。
「ノーダスさんそんな冷たいこと言わないでよ。知ってたって直接聞きたかったり言ってほしかったりするものなんだ。知ってるでしょ、僕はこう見えて寂しがり屋なんだ。」
「ふん。それならお前だって私がお前をあまりよく思ってない事を知ってるだろう。」
「そうだねぇ、知ってるよ。それなのに、僕の事を心配してスキルの事が周囲にバレない様に気を使ってくれたり、バレちゃった後もボクに変な噂や言いがかりが起きるたびに僕の事を庇い続けてくれたことも知ってる。」
「ぐ、そ、それは役職上仕方なく…。」
「あの頃はまだ役職なんてなかったじゃない。そんなに恥ずかしがらないでしょ。僕自身はノーダスさんに一定の尊敬と感謝を持っているんだ。」
「ならば、もっと協力的になってくれんものかな。」
「う~ん。そうねぇ、なんていうか、手のかかる子っていうポジションを手放したくないこの気持ち…わかる?」
「わかってたまるかぁ!!」
ちょっとイラっと来てついつい大きな声を出してしまったノーダスは、勢い余ってゲホゲホと咽てしまった。
「もー、大丈夫? 少しは仕事の量を減らしなよ。はいこれ。」
と、シルシアはノーダスに飲み物の入った瓶を渡す。
「ああ、すまん。」
ごくごくとノーダスはのどを潤した。
「おお、うまいな。」
「それはよかった。ここに来る途中でたくさん上質な魔力を蓄えたミオティ草を見つけたので久々にいくつか作っておいてよかった。ミオティ草を使って美味しくするの大変なんだよ?」
「そうか、それはすまなかったな。ところでその様子では相変わらずスキルに頼らず冒険を続けているのか?」
「『神の目』は魔力を常に消費するからね、他にまわす余力はちょっと僕にはない感じ。(なにせ世界の外も『視』ないとだからねぇ)」
「なら、問題はないな。」
ノーダスは机の引き出しから書類を取り出しシルシアに手渡す。
「知っているかもしれないが、冒険者認定試験中に想定外の魔物に襲われステータスを封印された少年についての資料だ。」
「おやまぁ。それは可愛そうなことに。」
「その少年にお前の知識を授けてやって欲しい。」
「ノーダスさんも知っての通り、僕はデミーで教師をやっていた時にロクに卒業生として冒険者を送りだせなかった人間だよ?」
「お前が原因ではない。それにお前の教えを受けた生徒は誰一人としてダンジョンで死んでいない。あの魔獣が出現した時でさえだ。私はそれを高く評価している。」
ノーダスの真っすぐな視線に、シルシアは恥ずかしがって視線を逸らす。
「それに、何もまたデミーで教えろと言ってるわけではない。その少年が住むリジェネア村へ行って直接教えるんだ。」




