1-2話 俺の夢
あれから、もう何匹かヤジリモグラとの鬼ごっこを経て必要な分の素材が集まった。
「スラッシュいっぱい使っちゃったなぁ。またリンドーにエーテルを節約して戦えって怒られるなぁ。」
エーテルというのは簡単に言ってしまうとスキルを使うために消費する魔力の1種で、体術系スキル用の魔力だ。
簡単に言っちゃうと魔法系以外の攻撃スキルと一部の回避系スキルで使用する。
エーテル以外には、炎や雷といった属性に変換されるプラーナ、傷や状態を回復するマナ、武器防具及び道具の鑑定や敵の状態を観察を行うルーンの4つがある。
ちなみに俺の場合は、エーテルとプラーナの量が多いらしい。
反対にマナとルーンはからっきしなんだってさ。
少し疲れたので休憩していると、真っ黒な鉄の塊みたいな大剣を背負った大柄な剣士がこっちにやって来るのが見えた。
俺の剣の師匠で育ての親と言ってもいい存在の一流冒険者リンドーだ。
どこに居ても目立つあの大剣は、昔リンドーの師匠が使っていた形見の大剣らしい。
「こら、スタン。お前はやたらめったらスキルを使うんじゃない。いざという時に使うもんであって、通常攻撃じゃねぇんだ。いつも言ってんだろうが。」
やれやれという感じでリンドーが俺のそばまで歩いてきた。
リンドーは現役の冒険者の中でもトップクラスの実力者だ。
冒険者協会からの指定ミッションをこなしてランクアップをしていないので、ランク自体はCだったかDくらいだったと思うけど。
ちなみにチャーハン作るのがめちゃくちゃうまい。
「だってさぁ、スキル使わないと当たんないんだもん。リンドーも言ってたじゃん。俺のエーテルの量は一流冒険者並みだって。ちょっとくらい使ったって平気だよ。」
「だ~か~らぁ~。ダメだっつってんだろがこのバカ!」
ゴツンとリンドーの固い拳で脳天を殴られる。
「いってぇ!! 」
「殴られたくなきゃぁいい加減覚えろ。」
「リンドーはすーぐ殴る。短気はよくないぞ、ハゲるぞ。最近抜け毛気にしてるの知ってるんだぞ。」
「ほぉ~、あともう2~3発殴られてぇんだなスタン?」
「あ…ちょ…」
追加でゲンコツを2発もらった。
「そもそも、何度も言うが、攻撃が当たらねぇのはお前がちゃんと敵を捉えられてないからだ。相手の動きを追うな。相手の動きの先を読めるようにならなきゃダメなんだ。」
リンドーのお説教が始まってしまった。
何度も何度も同じこと言ってて飽きないのかよ。
頭が痛くて全然話が入ってこない…
「スラッシュを使った方が当てやすいってことは、スラッシュによる身体能力の強化で相手がこっちの動きに反応するより早く攻撃を叩き込んでいるという事だろう。それに頼ってちゃスラッシュ本来の威力も出し切れないぞ。」
「でも俺のスラッシュ、その辺の冒険者より威力高いじゃん。」
「他のやつと比べて優れていることに満足するな。そんな心構えじゃ自分を過信して早死にするだけだぞ。敵の動きを上回れてないってことは基礎が足りてないんだ基礎が。スラッシュ使えなくなったら攻撃当たりませんじゃ話にならねぇぞ。」
「はいはい、わかってますよ~。」
スラッシュの身体強化は、エーテルを込めた剣を振る際にその反動に耐えるためのものであって、敵を捕捉するために使うものじゃないとリンドーは言う。
敵の動きを読み見切った状態で、必殺となる一撃の攻撃力を高めるために肉体を強化するというのが本来の姿。
それをしなくても高威力のスラッシュが使えるという事は、俺の才能が群を抜いて秀でているからなのだ!
「へっへ~。俺天才なんだよ。なんたって父さんと母さんの子だからね~。そのうちリンドーよりも強くなるかもよ?」
「あのなぁ…、スタン。お前が天才かどうかはともかく、調子に乗って無理するとそのうち痛い目見るぞ。」
「大丈夫だよ。俺がいつもこうやって戦ってて大丈夫なのは稽古つけてくれてるリンドーが一番よく知ってるだろ。」
リンドーは『はぁ~』とため息をついて肩をすくめる。
リンドーの事は置いといて、素材集めの続きだ。
「才能任せで剣を振りやがって。まるで昔の俺じゃねぇか。いざって時にそれじゃぁ困るんだよ。まったく…。」
なんかリンドーが言ってた気がするけど、まぁ気にしなくていいや。
「おいスタン。あんまり先に行くな。ダンジョンでは慎重さが重要なんだぞ。」
「リンドーが遅すぎるんだよ。」
低レベルのダンジョンくらいパパッと攻略して見せなきゃ、俺の目標とするすごい冒険者になんかいつまでたってもたどり着けない。
俺は、リジェネア村のみんなのために、父さんと母さんを探す手がかりを得るために、父さんやリンドーみたいに有名な冒険者になるって決めたんだ。
こんなところで時間かかってるわけにいかないんだよ。
俺の住んでいるリジェネア村は、俺が生まれる前はダンジョンがたくさん出現する有名な場所だった。
ダンジョンを目当てに多くの冒険者が来て、俺の両親もそのダンジョンを目当てにやってきた冒険者だ。
父さんと母さんは日々次々と現れるダンジョンを競い合うように攻略してどんどん有名になり、二人の活躍を聞いてさらに冒険者がやってきたり、冒険者相手の商売をする人たちも増えその頃のリジェネア村は賑わっていた。
だけど、10年前に出現した強力な魔物を討伐する討伐隊に参加して欲しいと冒険者協会から要請があって、その討伐隊に参加して帰ってこなかった。
同時期にダンジョンが出現しなくなってダンジョン目当てに来ていた冒険者がどんどん去って行ったんだ。
冒険者が居なくなったことで、冒険者相手に商売をしていた人達も次第に村を去り賑やかだった村は次第に閑散とするようになった。
仕事や生活の快適さを求めて、もともと住んでいた村人も半分以上村から出て行ってしまう。
今じゃ、少ない村人が細々と暮らす寂しい村だ。
この世界は、いとも簡単に大切なものを奪っていく。
そういう世界だ。
でも、誰かが悪いわけじゃないんだとは思う。
だけど、だからと言ってそれで納得していいはずがない。
俺は父さんと母さんはまだ生きているって信じてる。
だから父さんと母さんを探したい。
そして父さんと母さんが帰ってくる村を、昔ほどじゃなくても元気な村に戻したい。
そのために俺が有名な冒険者になって、昔のように冒険者が村にやって来るようにするんだ。
そしたら、いろんな情報が得られるから父さんと母さんの情報だって得られるかもしれない。
おれは絶対に冒険者になるんだ。




