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3-6話 失敗も間違いも

「スタン。お前何やった?」


 ギルドハウスに着いた途端、ガストさんににらまれ詰め寄られる。

 相変わらず怖い。

 なんというか厳しい人なんだ。

 

 ガストさんは、昔、幼馴染たちと冒険者パーティーを組んでダンジョン攻略をしていた。

 攻略が進み、高難易度のダンジョンになるにつれて戦闘やダンジョンそのものの環境について行けなくなり、離脱を決意して脱退している。

 脱退後はガストさんのスキルを活かすために鍛冶師になるため厳しい修業をして鍛冶師となった。


 それは冒険についていくことはできなかったけど、何か仲間のためにできることを探して彼らのために最高の武器防具をつくると決心したからだ。

 ガストさんの武器と防具は扱いやすく手に馴染みやすい上に耐久性もあり評判がいい。

 その武器と防具で、ガストさんの仲間たちはいくつものダンジョンを攻略した。


 だけど、ガストさんの仲間はあるダンジョンの攻略中に行方知れずとなり、その後しばらくして父さんと母さんリンドーとモル姉がそのダンジョンを攻略中にガストさんが仲間たちのために特別に作った武器や防具の残骸を見つけ遺品としてガストさんが管理している。

 この人も、世界から大事な物を奪われた一人だ。


「何・・・とは何でしょうか・・・」

「さっき、ニーナが顔を真っ赤にして怒りながら走っていったのを見たぞ。」

(oh・・・よりによってこの人に見られたか・・・)

「アルの奴に後を追わせたから大丈夫だとは思うが、ニーナがそこら辺の魔物より強いからって女の子は女の子なんだぞ。」

「はい・・・。」


 アルは俺の友達で、ガストさんの弟子だ。

 武器や防具を作るのが好きで、アルの作った武器や防具を装備して俺が冒険者として有名になると約束した中でもある。

 ・・・俺、こうしてみるとそこらじゅうで約束を反故にしそうなダメダメ人間だなぁ。

 

 まぁ、それは置いといてアルがニーナについててくれるなら大丈夫だろう。

 小さい頃はアルも俺たちと一緒によく遊んだ仲だし。 

 はぁ。とガストさんはため息をつく。


「まぁいい。ここでお前に小言を言っても意味がない。行くぞ荷台に乗れ。」


 俺はガストさんの浮魔が引く荷台に乗る。

 ガストさんの浮魔はティニアという名前で、大型の鳥の姿をしている。

 昔ガストさんがまだ冒険者だったころ、別の魔物(希少種)に襲われて居たところを希少種のドロップアイテム目当てで助けたら懐かれてそのままパーティーの荷物持ちとして一緒に冒険をしていた浮魔だ。

 ガストさんが冒険者を引退してパーティーから離れた時に一緒についてきたらしい。


「ティニアよろしくね。」


 ティニアに声をかけると彼女はこちらを見てウインクをしてくれた。

 希少種に襲われた際に翼を食いちぎられて飛べなくなってしまったけど、ティニアは頭が良くて魔物の気配を察知する能力も高くとても頼りになる。

 さらに努力家で、飛べなくなったことを補うためにダッシュ力を鍛え移動やアイテムの運搬などで活躍できるまでにステータスアップを成し遂げている。


「乗ったな? よし、いくぞ。」


 ガストさんの指示でティニアが走り出し、俺たちはリジェネア村を後にした。


「それで何があったんだスタン。」

「それが、俺としてはグレイスさんに迷惑を掛けないようにできたらと思っただけなんですが…」

「でもな、その結果迷惑をかけることになったら意味ねぇんだよ。いいから、包み隠さずさっさと話せ。」


 グレイスさんの事になるとガストさんは怖い。

 殴られるくらいで済ませてくれるといいんだけどなぁ…。

 まごついていると、ガストさんにジロッっと睨まれたので俺は観念して全部話した。

 

「以上になります。」

「なるほど。」

「はい。」

「お前にしては確かに気を使った事は分かった。確かに冒険者やろうって人間が誰かの世話になってちゃあ仕方ないよな。」


 あれ…? 怒られなかったぞ…?


「でもな、お前のその気遣いは残念だが結局自分しか見れてない。自分に都合のいい気づかいなんだよ。だーから失敗してんだ。」


 あ、これは時間差で怒られるパティーン


「いいか、お前は今回グレイスさんに気を遣うように見えるが自分の都合を押し付けただけだ。」

「いやそんなつもりは。」

「お前がちゃんと周りの意見を聞き入れていれば今年もグレイスさんの世話になって、ニーナも怒る事もなくグレイスさんも余計な苦労をすることはなかった。と こ ろ が、お前は自分がグレイスさんのお世話になりたくないという『我儘』を通すためにあれこれ理由を付けてその我儘を通した。その結果だ。」

「じゃぁ、なんもかんも全部俺が悪いっていうんですか!?」

「そーだよ、そんなこともわかんねぇのか。知性まで失ったか? ああん? あ、ステータス無くなったんだもんな。コイツは俺が悪かった。」

「言ったなぁ!!」

「ああ、言ってやった。そもそもステータス無くなったからなんだ。何か不都合が出たら諦めたり躊躇ったりするようなら何かになろうなんて初めっから思うんじゃねぇ!!」

「うるせぇ! 冒険から降りた癖に、逃げた癖に偉そうに言うな!!」


 お互いに地雷を踏み抜き合った。

 これはもう引くことはできない。

 もうどうにでもなれ。


 この人は、何かにつけては俺を否定してくる。

 何が理由かなんかもう知りたくもない。

 俺だってアンタを否定し続けてやる。


 その時。

 ティニアが急ブレーキをかけて止まる。

 

「うお!?」

「うわ!!」


 姿勢を崩した俺とガストさんは互いにティニアが引いている荷台から転げ落ちた。


「いててて」

「どうしたティニア、魔物か!?」


 魔物、という言葉に反応して身構える。

 が・・・周囲に魔物は見当たらなかった。

 

「なんだ、何も居ない・・・ぐげっ!!」


 気を抜いた瞬間。

 ティニアに尻尾でぶっ叩かれた。

 ガストさんはゲシゲシと蹴られている。


「悪かった。ティニア俺が悪かったから許してくれ。」


 こうしてティニアに仲裁ボコボコにされ俺とガストさんは一旦その場を収めた。

 再び荷台に乗り、ティニアが進みだす。

 時折チラチラとこちらを見て様子を確認しながらになったけど・・・


「スタン。さっきの話だが、その通りだ。だから俺は仲間を失った。俺はあいつらの負担になりたくないという俺の我儘を通してあいつらと一緒に死ぬ機会を失った。」


 ガストさんは淡々と事実だけを伝えるニュースキャスターの様に言う。

 気配を察したティニアがこちらを見た。


「ティニア。俺は言い争いをするつもりはねぇよ。このバカ次第だ。」


 俺は、何も言わなかった。

 何も言えなかった。

 

「ニーナはな、ステータスを無くしても頑張ろうとしてるお前の力になりたくて、お前のために料理を作ってお前が来るのを待ってたんだぞ。そりゃぁお前は知らねぇだろうがな、それでも世話になっておけと言われたときになんかあるとは考えなかったのか?」


 ・・・え?

 それは・・・そんな・・・言ってくれれば・・・いや、でもぉ・・・


「お、おれは、取り返しのつかない事を…、取り返しのつかない事をしてしまった…。」 


 頭を抱えて俺は己の行動を後悔した。

 知らなかったと言えばそうだけど、俺が突然予定を変更したのだからやはり俺が悪いだろう。


「俺はいったいどうしたら・・・」

「知らん。だが、どうしたってもう取り戻せねぇ物を取り戻そうとはするな。今からでもできることで埋め合わせていくしかねぇ。」


 今からできる事…、なんだ、何したらいいんだ…


「考えろ。答えなんてどこにもねぇ。相手は人間で自分じゃねぇんだ答えなんてわかりっこねぇが、それでも相手を想って考えるのが筋ってもんだ。いい勉強になったじゃねぇか。」

「はい・・・。でもなんでガストさんはニーナが料理を作ってることを知ってたんですか?」

「ああ、この前な包丁とかウチの店に買いに来たんでな。そん時に聞いたんだよ。それもよぉ、グレイスさんのお手伝いとかをして貯めたお小遣いで買っていったんだ。泣かせるじゃねぇか。文句の一つも言いたくなるってもんだろぉ?」

「時間を巻き戻せる魔法が欲しい…」


 思わず今の気持ちを吐露してしまった。


「バカ言え。ねぇよそんなもん。あっても欲しがるな。」

「…何でさ。ガストさんはガストさんの仲間を助けたり、冒険者引退しないで一緒に最後まで仲間といられるようにしたくないの?」


 言ってから、何故かとても失礼なことを言ってしまった気がした。


「そうしたくないわけがない…。だがな、もしそうしてしまえばだ、俺があいつらをこれほど大切に思っているという事を俺は死ぬその時も知ることはなかっただろうよ。それに気づくまでに時間は…かかったがな。俺はもうあいつらを悲しいだけの思い出にはしねぇよ。」


 ガストさんは遠くを見ながら『時間はかかったがな』ともう一度呟いた。

 

「いいか、俺の失敗も間違いも俺だけのものだ、お前の失敗と間違いもお前だけのものだ。それを無くしたり奪ったりすることはあっちゃならねぇ。」

「どうして?」

「それすらも俺たちの一部だからだ。俺たちはそこから学び得て次に進まなきゃならねぇ。そうじゃなきゃ、そうしなきゃあよぉ、顔向けができねぇだろ。だからよ。ちゃんと立ち上がれよお前は。」

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