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3-5話 置いていかれて置いていって・・・

 久々の実家は何か特別感があるわけでもなく、かといって普段と同じような馴染んだ感じもなく不思議な感じだった。

 それはそれとして、目覚めた俺はウィルとアップを起こしてグレイスさんの家に向かう。

 意外なことにウィルは寝起きがよく、スパっと起きて朝から元気だ。


「えー、朝ごはんここで食べるんじゃないの?」

「そうだぞ。グレイスさんを手伝わないとな。昨日、説明したはずだぞ~。」

「そうだっけ?」

「お前、話聞いてなかったな。」


 まぁ、ウィルは人の話を半分くらいまでしか覚えてられないからな。

 それよりもアップだ。


「おい、アップいい加減シャキッとしろ。」

「え~、僕まだ眠いよぉ。ニンゲンさんはどうしてそんなに早起きするの?」

「そりゃ、お日様が居るうちにやれる事をやっとかないとだからだよ。」

「ニンゲンさんは、光る石を使って夜も明るくできるのに?」


 アップが言う光る石というのは部屋の明かりの事だ。

 大昔は電気というものを使って光を生み出していたが、今現在はミスリルメタルという鉱石を消費している。

 ミスリルメタルは電気に変わる代物として現在様々な生活に欠かせない消耗品で、鉱石という名が付いているものの結構ダンジョン内ですぐに拾えたり魔物からドロップしたりする。

 それでも冒険者による採掘がメインとなっていて、採掘専門の冒険者集団もいるくらいだ。


「光を使えても、やっぱり夜は寝るものだよ。」

「ふ~ん。でも僕いっぱい寝たはずなのにまだ眠いや。」

「疲れてたのかもな。」

「そうなのかなぁ。そういえばダンジョンの中に居たときはこんなに眠くなったことなかったかも。」

「ああ、そうか、アップは元々ダンジョンで暮らす魔物だもんな。そういやどうしてダンジョンから出てきたんだ?」

「ワカンナイ。気が付いたら知らないところに居て、そしたらスタンに出会ったんだよ。」


 そうだったのか。

 魔物と言えど自分の意思でダンジョンに出入りすることはできないのか。

 

「もしかしたら、ダンジョンの外だと体力の消費が大きいのかもな。それで体が省エネモードで動こうとしてるとか。」

「そっかぁ。スタンは物知りだねぇ。」

「別に大したことねぇよ。しゃあない。グレイスさんの所に行くまでは俺が運んでやる。」

「ワーイ。でもカバンの中は見ちゃダメだよ。」

「わかってるって。」


 俺はカバンとアップを抱えてウィルと一緒に久々の実家を後にした。

 グレイスさんの家で俺たちを待ち構えていたのは、ものすごーく不満を顔に出したニーナだった。


「おお、ニーナ。おはよう。一人で起きれて偉いな。」

「・・・」


 ぷくーっと頬を膨らませてこちらを睨みつけてくる。

 ウィルは俺の陰に隠れやがった。


「ニーナ。別にニーナをのけ者にしようとした訳じゃないんだ、俺も冒険者として生きていくことを心に誓った身だ、いつまでも誰かの世話になったりしていてはいけないからな、自分の事は自分でできるようにならないとダンジョンで困っちゃうだろ。だから、な?」


 俺は必死に弁明を試みる。


「・・・お兄ちゃんはよくて、どうして私がスタンお兄ちゃんのお家に行っちゃ行けなかったのか理由になってない。」


 そうですね! そのとおりですね! でもねー、そういうものなんですよ。

 わかっていただけません???

 だってさぁ、俺も年頃の男の子だからさぁ~。


 満を持して俺の陰から出てきたウィルが、勝ち誇ったようなどや顔をニーナに見せつける。


「ニーナ。俺とスタン兄ちゃんにはな、男の友情ってのがあるんだよ。まぁ、お前は女の子だから男同士の間には入って来れないってこと。」

 

 おま・・・、この状況でなんてことを・・・

 次の瞬間、ニーナのパンチでウィルがどや顔のまま吹っ飛んで行った。

 

「お兄ちゃんのバカ!! スタンお兄ちゃんもバカぁぁぁぁぁ!!!」


 そのままニーナはダッシュで何処かに走っていってしまう。

 まいったな、どうしたらいいんだこれ。


「しっかし見事なジェットスクリューパンチだったなぁ・・・」


 ニーナがウィルに放った強烈な一撃は、ジェットスクリューパンチというかなり高度な攻撃スキルだ。

 ウィルもウィルで吹っ飛びはしたものの、ピンポイントシールドという部分的に打撃を無効化するこれまた高度な防御スキルを展開している。

 実はこの二人、相当素質があってリンドーもモル姉も一目置いたりする。


 俺と一緒に冒険に行きたいなんて言っているけど、今のままじゃ冒険に置いてかれるのは俺の方だよなぁ。

 ニーナも俺とウィルに置いていかれてこんな気持ちだったのかもしれない。


「ねぇスタン。ニーナちゃん行っちゃったよ・・・?」

「ああ、そうだな。どうしたものか。」


 感傷に浸っている場合じゃなかった。


「僕がニーナを探しに行こうか? スタンは今日もお仕事あるんでしょ?」


 アップが先ほどまでの眠たい表情からは想像できないほどキリッとした表情でこちらを見てくる。

 

「ニーナが行くところ分かるのか?」

「えっとね。ニーナの魔力を辿れば見つけられると思う。ここはダンジョンと違って魔力が薄いからニーナの魔力を見つけやすいし。」

「そうか、ならアップに任せた方がよさそうだ。俺が行ったらまた怒らせちゃいそうだしな。頼んだぜ。」

「うん。マカサレタ!」


 アップは元気よく走っていった。

 本人はうおぉぉぉぉと勢いよく颯爽と駆け抜けているイメージのようだが、トコトコトコトコと進んでいくすがたは愛らしいの一言だ。

 本当にニーナを見つけてくれるか若干不安だが、ぶっちゃけニーナはそこら辺の魔物よりずっと強いので大丈夫だとは思う。

 何だかんだ村のみんなが気にかけているから、本当に危険なところへ行きそうになったら誰かが必ずついていてくれるはずだ。


「うーん。こんなことなら気を遣ったりしないでお世話になっておけばよかったなぁ・・・」


 頭をポリポリかきながらため息をつく。

 俺はウィルを回収すると、意を決してグレイスさんの家にお邪魔し事情を説明した。

 当然グレイスさんはウィルを叱る。


「ウィルくん。どうしてニーナちゃんが怒るようなことをわざわざするの。あなたはニーナちゃんのお兄ちゃんなのよ? 妹には優しくしなさい。」

「だって~、納得させてたって溜め込むだけなんだから爆発させといたほうがいいって。」

「だってじゃないの。」

「はい・・・」

 

 流石にウィルもグレイスさんに叱られるとおとなしくなるしかない。 

 ただまぁ、この光景も日常茶飯事というかいつものことなので平和と言えば平和なのかもな・・・ 


「スタン君も、男の子だから気にしちゃうところあるかもしれないけど、ニーナちゃんと遊んであげてね。」

「はい・・・。」


 グレイスさんにそう言われ、俺は己の非を認めざるを得なかった。

 ニーナと遊びたくなかったわけじゃあないんだけど、結果としてそう見えてしまったところはあったかもしれない。


「ニーナちゃん。昨日はとても寂しがっていたのよ。」


 グレイスさんの表情はいつもより少し疲れているようにも見え、余計な事をしてしまったと後悔が深まった。

 思っていた以上に俺は頼りにされていたみたいだ、自分では余計な負担を与えてしまっているんじゃないかと思っていたけど。

 困り顔のグレイスさんが少しふらっとする。


「大丈夫ですか?」


 とっさに支えに入った俺にグレイスさんは意地悪く言った。


「スタン君が昨日ウチにのお泊りしてくれたら、こんなに疲れることもなかったのかしらねぇ。ニーナちゃんずーっと怒ってて大変だったんだから。お夕飯、ニーナちゃんも一緒に作ってたのよ?」


 あー、まじかぁ、まじかぁ、まじかぁぁぁぁぁ。

 やっちまったなぁ。

 

「すいませんでした。もう勝手な事しないんで許してください…」


 グレイスさんは俺の弱り果てた表情を見て、ふふっと笑いデコピンをしてきた。


「あいたっ!!」

「仕方ないからこれで許してあげるわ。スタン君は今日からガストさんと一緒に商人さんの所へ行くのよね。待たせたら行けないからニーナちゃんの事は任せて行ってらっしゃい。」

「すいません。よろしくお願いします。」

「ちゃんとニーナちゃんにお土産買ってくるのよ?」

「はい。」


 お土産という言葉に反応したウィルが「スタンにーちゃん俺も~。」と悪気もなく言うが「可愛いい妹を怒らせるようなお兄ちゃんにはお土産は必要ありません」とグレイスさんにまた怒られてしまった。

 迷惑をかけておいてなんだけど、そのやり取りは少しだけ羨ましくも感じる。

 それはグレイスさんとウィルとニーナが、血を分けた親子ではないけどやっぱり家族なんだと思うからなんだろう。


「スタン兄ちゃん。しばらく帰ってこないよね? アップどうするの?」


 ウィルに言われて気が付いた。


「あ~。どうしよ・・・」

「ウチで預かってていい?」

「え~、それはちょっとさすがにマズくないか? あいつもアレで一応魔物だぞ。」

「でも、俺とニーナの友達だよ。」


 俺も大丈夫だと思うけど、さすがに村長あたりに預かってもらった方がいいんじゃないかなぁ。


「アップちゃんなら大丈夫よ。ウチで預かっておくわ。」

「いいんですかグレイスさん。」

「ええ。誰かさんと違ってニーナちゃんを探しに行ってくれた優しい子ですもの。それくらいはしても罰は当たらないわ。」


 うぐっ・・・。

 もうダメだ、今日のグレイスさんには逆らえない。


「わかりました。おねがいします。」

「ええ、それじゃ行ってらっしゃい。気を付けてね。」 

「はい。行ってきます。」


 俺は元気よく挨拶してギルドハウスへと向かった。

 帰ってきたらちゃんとニーナに謝らなくちゃな。

 

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