2-8話 いつかその時が来たらね。
アップに出会ってから数日が過ぎた。
今、アップはリジェネア村で俺と一緒に暮らしている。
結構村のみんなとも楽しくやっているみたいだ。
あの後、追いかけてきたリンドーがアップを見て『おお!? ペンギンアカチャンかそいつ? 初めて見たぞ。』と驚きの声を上げ、そのペンギンアカチャンなる魔物の事を解説してくれた。
大昔からダンジョンなどで出会ったという報告が複数の冒険者から報告されている不思議な魔物らしい。
冒険者の落とし物を届けてくれたり、倒れた冒険者を介抱してくれたり、時には冒険者と共にダンジョンの探索を行ったりしたとのことだ。
ただ、報告された地域や年代がバラバラでその生態は不明。
一貫しているのは、大昔この星に生息していたペンギンという生き物の幼体に似ているその愛らしい風貌と、人間に友好的だという点。
モル姉にギルドの過去情報を調べてもらったら、直近でも報告があったのは500年以上前にダンジョンで見かけたという噂話があったという当時のギルド職員の日記みたいな報告書だった。
「倒して手に入った素材がギルドに入ってきたり、魔物を生け捕りにして密売しようとした犯罪者がつかまったりで、何かしらギルドが直接その存在を確認できていたらもうちょっと情報があると思うんだけど、そう言ったことはなかったみたいね。」
わたしもちょっと興味あったんだけどなぁ。
とその時のモル姉は残念そうだった。
あと、そうそう、村にはアップ以外にも一人住民が増えた。
その名も・・・
「スラの介スラ太郎スラ座衛門。」
名前を呼ぶとスス~と前方の物陰から姿を現す。
スライムだ。
そう、何を隠そう俺がボコボコにされたスライムだ。
俺をギルドハウスに担ぎ込んだあと、ポルトさんが収穫した農作物を見に行ったらあのスライムが収穫した野菜を守ってくれていたそうな。
そして、一緒に野菜を運ぶ手伝いもしてくれたらしい。
何か懐かれたようなので、ポルトさんはスラの介とそいつを呼ぶようになった。
しかし、俺をボコボコにしたスライムなので村のみんなに教えるわけにもいかず隠れて育ちの悪かった野菜をエサとして与えたりしていたらしい。
ところが、このスライム。
実は、漁師のザックさんと木こりのモックさんにも懐いていたようで、二人はそれぞれ『スラ太郎』『スラ座衛門』と呼んでいた。
そしてある日、いつも別々のタイミングで仕事をしていた3人が同じタイミングで仕事をする日があった。
それまでにも3人が同じタイミングで仕事をするときはあったんだけど、基本的にはスラの介スラ太郎スラ座衛門の方が会いに来ていたので鉢合わせることはなかったらしい。
ところがその日はしばらく前からそのスラの介スラ太郎スラ座衛門が顔を見せなくなったので、ちょっと心配でいつもスラの介スラ太郎スラ座衛門がやって来る方向を探しに行ってみたところ、スラの介スラ太郎スラ座衛門が仲間のスライム複数から攻撃を受けていたのを見てしまい、たまらず助けに入ったら3人が鉢合わせ3人でスラの介スラ太郎スラ座衛門を保護し連れて帰ったという事だ。
スライムは弱いがゆえに自分より弱い存在を見つけ攻撃することで安心を得ているというギルドの調査員がまとめた観察結果がある。
おそらくスラの介スラ太郎スラ座衛門はスライムの中でも弱いのだ。
食べ物をくれたポルトさん、ザックさん、モックさんの3人は味方だと思ったのかもしれない。
なので、スラの介スラ太郎スラ座衛門は村に連れてこられてからしばらくポルトさん、ザックさん、モックさんの3人にしか姿を見せなかったが、自分が倒した相手・・・つまり俺・・・を見つけて安心したのかちょいちょい村のみんなの前にも姿を見せるようになりその存在が明るみになったというながれだ。
スラの介スラ太郎スラ座衛門は、スッラはポルトさん、ザックさん、モックさんの手伝いをしているが、暇になると俺にちょっかいを仕掛けてくるので、いっそ俺の訓練相手として利用することにした。
一緒に訓練をするようになってから分かったことがある。
スラの介スラ太郎スラ座衛門はどう考えても普通のスライムより段違いで強い。
避けることに全力を割いているとはいえ、かなりきわどい攻撃が飛んでくる。
手加減してるとはいえリンドーに鍛えてもらってるんだ、普通の不ライムじゃないってことは間違いない。
コイツが同族のスライムから攻撃されていたのは別の何かがあるのかもしれないな。
「よし、アップ。準備できたか?」
「うん! モルデンさんのお弁当入れてもらったからバッチリ!!」
「じゃぁ、今日も特訓するぞーーー!!。」
特訓が終わってモル姉の用意してくれたお弁当を食べながら、俺はアップがいつも背負っている体と同じ大きさくらいのバッグについて聞いてみた。
「なぁ、アップが背負ってるバッグは何が入ってるんだ?」
「コレはね、僕の宝物がいっぱい入っているんだよ。」
「宝物?」
「うん。今までに出会ったニンゲンさんたちとの思い出なんだ。一緒に冒険したりもしたんだよ。みんなお別れの時に僕にアイテムをくれたんだ~」
「そっか。それは大事な物だな。」
「えへへ。だけど、僕は魔物だからアイテムを使い方がわからないんだ~。でもいいんだ。みんなとの思い出だもん。それだけで十分なんだよ~」
「ふ~ん。どんな種類のアイテムだったんだ?」
「えっとね、僕にはよくわからなかったけど、カッコイイ形の透明な瓶に奇麗な色をした水が入ってるんだよ。いろんな色があるんだ。」
アップはバッグを大事そうに抱えながら嬉しそうにそう言った。
その様子から、アップがそれをとても大事にしている事は誰にでもわかるだろう。
「貰ったアイテムがポーションなら俺が使い方を知ってるかもしれないぞ。ちょっと見せて見ろよ。」
俺がバッグに手を伸ばそうとすると、アップはサッと俺から離れようとした。
「ダメだよ~。これは大事な物だからスタンにだって見せられないよ~。」
「え~いいじゃん。ちょっと見せてくれよ~。」
「ダメ~。そうだなぁ、いつか僕の相棒になって冒険に行ってくれたら見せてあげてもいいよ。」
アップはニコニコしながらまた冒険に行こうと言う。
「だーから説明したろ? 今の俺は冒険者としてやっていける状態じゃないんだって。」
「でも、冒険者になるために特訓してるんでしょ?」
「そりゃ、まぁ、そうだよ。いつになるかわからないけどな。」
「じゃぁ、その時が来たら、その時が来たら見せてあげるね。」
やっぱりアップはそう言ってニコニコしていた。
アップを見ていると、不思議と何とかなるような、何とかなりそうな気がする。
不思議なやつだ。
そんなことを考えていた時、ドカッと背中に衝撃を受けた。
「イッテぇ…なにすんだ!」
自分の体を変形させ腕を作ったが、後ろから俺をどついてきた。
「・・・」
スラの介スラ太郎スラ座衛門は無言で俺にシャドーボクシングを見せてくる。
「気を抜いてる方が悪いっていうのかこの野郎」
「・・・」
スラの介スラ太郎スラ座衛門はクイクイっと手で掛かって来いとアピールしてきた。
このやろう・・・
「おうおう、やってやろうじゃねぇか。お前の攻撃はもう見切った! いつまでも俺が避けてるだけだと思うなよ!!」
「スタンがんばれ~」
アップの声援を背中に受け、いつかこうやって一緒に冒険に行けたらきっと楽しいだろうなと思った。




