2-6幕間2 ボクがもらった『楽しい』をいつか伝えたくて
暗い闇の中、ボクはそこに居た。
長い、とても長い間、ずっとそこに居た。
ある時、光が差してボクは世界を知ったんだ。
『目覚めたのかい? ようこそ、私と君とみんなの世界へ』ボクにそう優しく話しかけてくれた人の名前はヴェイロン。
ヴェイロンは短い間だったけど、ボクに世界の事を教えてくれた。
ヴェイロンが語ってくれた冒険はどれも凄く素敵で僕も世界を旅してみたくなったんだ。
ボクも冒険ができるかな? と聞くとヴェイロンは『ああ、もちろん。ただ、残念だけど私たちは一緒に行くことができない。』と悲しそうな顔で笑った。
ヴェイロンは優しくボクの頭を撫でると『それでも、君が冒険を続けていれば、その道の先でまた会える事もあるよ。』と教えてくれた。
ヴェイロンはボクに名前をくれた『アップと言う名前はどうかな?』ボクはアップという言葉の響きがとても気に入った。
それから、ボクにその言葉の意味を教えてくれた。
『上を目指す者、立ち上がる者。これから冒険者として冒険に身を投じる君にふさわしい名だと思う。』
そして、ヴェイロンがここから次の場所を目指す時が来た。
ボクはヴェイロンが居なくなったら一人ぼっちになって、それは寂しくて悲しくて嫌だと伝えた。
『ありがとうアップ。私もキミと離れるのは辛い、だが出会いとはこういうものでもあるんだ。別れを惜しむほど互いを大事に思えるようになった君との出会い、その思い出と感謝の証として君にこれを贈らせてほしい。』
そう言うと、ヴェイロンはボクが背負える大きなバッグを渡してくれた。
『君の仲間と君の冒険の思い出をこの中にたくさん詰めて、次に会ったら私に君の冒険を教えて欲しい。』
別れ際に交わした約束がいつ果たされるのかはわからない。
それでもボクは、その『いつか』を信じて旅に出た。
一番最初に知ったことは、『怖い』だった『痛い』も『辛い』もあった。
何も知らない世界が怖かった。
踏みだした大地はひんやりとしていて体温を奪われる感覚が怖かった。
当然、他の魔物に襲われて怖かったし、傷だらけになって辛いこともたくさんあった。
一番多かったのは『わからない』だと思う。
どこへ行けばいいのか、何をしたらいいのか。
何もわからないまま、それでも僕はそこを離れた。
ヴェイロンと交わした約束を果たすために、どこに行くのかも、何をするのかも、自分で決めるその道を歩み出した。
喉の渇きを潤すには、空腹を満たすには、安全に眠るにはどうしたらいいのか。
たくさんの間違いを繰り返して、ボクは歩き続けた。
『嬉しい』や『凄い』は数えるくらいだったような気がするけど、ボクが冒険を続けるには十分だった。
それはね、歩き続けた先でたまに出会うヴェイロンに似た人たちと出会うことがあったから。
彼らニンゲンは、僕と少しの間だけ旅をしてくれたり、僕を助けてくれたりした。
一緒に魔物を倒したり、一緒に星空の下で眠りに付いたり、珍しいものを探してそれを見つけたり。
そうして僕は彼らとの思い出もヴェイロンからもらったこのバッグに詰めて歩き続ける。
ボクは彼らとのそういった関わりがすごく、すごく好きだとわかったから。
ボクは、どこかに居るボクと一緒に冒険をしてくれる仲間とのとびっきりの冒険をする。
そしてヴェイロンにとびっきりの冒険の話をするんだ。
かつて彼がそうしてくれたように、ボクに『楽しい』を教えてくれた時の様に。
あの時、僕がヴェイロンにもらった楽しいを、今度は僕がヴェイロンに伝えたいんだ。




