2-2話 再スタート
「ふあぁぁぁ。朝かぁ。」
欠伸をしながら目覚める。
そこはギルドハウスにある俺の部屋。
朝の陽射しが薄くカーテン越しに差し込み、今までと変わらないいつも通りの朝が来たことを告げる。
あれから、冒険者認定試験が終わってから、1週間がたった。
冒険者認定試験の結果は冒険者協会に伝えられている。
結果はもちろん依頼内容は達成したと認められた。
だけど、ステータスが封印されてしまった俺は冒険者として認めてもらえなかった。
そう言われてしまえば、それがどういうことかを身をもって知った状態じゃ受け入れるしかなかった。
俺はもう傷もよくなって村の手伝いをしている。
リンドーは意識を取り戻したけど、本調子にはまだほど遠いみたいだった。
リジェネア村唯一の冒険者であるリンドーが療養中のため、村のみんなもいろいろ困っている。
村の畑に魔物がやってきて荒らされてしまったり、魔物の素材を使っている料理や薬が作れなかったり、同じく魔物の素材を使っている衣類や道具類の修理ができなかったり。
当然だけど、どこかのギルドハウスに応援を要請して冒険者を呼ばないといけない。
その対応に追われているのが、村唯一のギルドハウスで管理人をやっているモルデン・グーテさん。
昔から付き合いがあって俺はモル姉と呼んでる。
父さんたちが戻らなくなってから、俺の食事や洗濯物の世話をしてくれている俺の保護者みたいな人だ。
そのモル姉が、周辺のギルドハウスに連絡して応援をお願いしたけどいい返事は帰ってこなかった。
別にギルドハウスの人たちが意地悪とかしてるんじゃなくて、こんなダンジョンもない辺境の村に来る冒険者なんてそもそもいないんだ。
それに、リンドーは全部1人でやってたけど、それはリンドーだからできるのであって、一般的な冒険者だったら最低でも10人くらいは来てくれないと対応できないと思う。
せめて、魔物を追い払うくらいはできればよかったんだけどな…。
ポルトさんの畑を手伝った件で、俺がどういう状態なのかは村長が説明してくれた。
白虎様から説明を受けていたそうだ。
まぁ、そういうわけで俺の今後についてどうするかみんなで話し合ってくれたらしい。
結論としては俺はみんなの手伝いをして暮らしていくことになっていた。
俺としてもやることがあったほうがいいのでそれはありがたい。
仕事内容は意外と多岐にわたる。
まず、俺に手伝ってほしい人がモル姉に依頼を伝えて、モル姉がギルドハウス内のクエストボードに届いている依頼を貼りだす。
そして、その依頼を俺がやるかどうか決めてモル姉に依頼を受けることを伝える。
何かに似てると思わない?
そう、冒険者が依頼を受ける流れそのものなんだ。
気を使ってくれてるのかなぁと思わなくもないし、みんないろいろ手伝ってほしいことがあるから、その依頼の交通整理をする必要があるので既存の仕組みを使うのが都合よかったというのも納得できる。
ただ、どうしても、なんだかごっこ遊びをしているようで、虚しく感じる瞬間が来てしまう。
俺にできることはそれを振り払うように、忘れられるように依頼のあった仕事をする事だけ。
仕事をして疲れ果てて、何も考えることなくベッドに逃げるみたいに潜り込んで寝る。
これから先、俺はそうやってずっと生きていくんだ。
そんなことを思ったとき『ぐぅぅぅぅ』っと腹が鳴った。
そう、幸せだろうが、不幸だろうが、嬉しかろうが、辛かろうが、人は腹が減る。
「あんま、朝飯食べる気にもならないんだけどなぁ。」
重い体を起こし、ベッドのふちに腰を下ろす。
カーテン越しの陽射しがなんだか気になって、カーテンを掴む。
そっとカーテンを開くと、朝日はいつもと同じで眩しかった。
何もかも変わらないのに俺だけが何もかもを失ったように思えて、眩しい世界が眩しすぎてカーテンを閉じた。
閉じるしかなかった。
「何でこうなっちまった。」
口に出したその言葉は、よけい自分をみじめにする。
もう一回布団に逃げ込もうかと思ったとき。
「スタンちゃん。いい加減に起きなさい!!」
バーーーーーーーン と部屋のドアが開く。
「あ! もう。起きてるんじゃない。さっきから何度も呼んだのに返事もしないで。今日もお仕事いっぱいあるんだからね。ちゃんとご飯食べにきなさい!!」
一気にまくしたてながらモル姉が飛び込んできた。
「いつまでカーテン閉めてるの。朝なんだから、カーテンは開けなきゃ。」
部屋に再び光が入って来る。
俺の心を見透かしたかのように、モル姉は冒険者について話し出した。
「スタンちゃん。冒険者に大事なこと知ってる?」
「僕、もう冒険者にはなれないよ。」
「それを決めるのは誰?」
「誰って、そんなの冒険者協会でしょ。」
「正しいけど違うわね。」
「ええ~。」
「だって、もし冒険者協会が無くなったら、あなたのお父さんやお母さん、あのデカイ板切れを振り回すしか脳のないリンドーが冒険者じゃなくなると思う?」
「いや、それはそんなことないと思うけど…」
モル姉は、開け放たれた窓から差し込む光の中でいつも通りにやさしく笑った。
「じゃぁ、いいじゃない。あなたが何者であるか決めるのは、いつだってあなたよ。」
そんなの、何かやりたい事で生きていこうとした人間が、それを叶えられなかった時に開き直ってそれまでの自分が壊れないように守るために使う方便じゃないか。
「また冒険者を目指せばいいじゃない。冒険者協会が認めざるを得ないくらい冒険者として他のみんなに認められればいいだけの話よ。」
その言葉を聞いた時、俺は言うのは簡単だよと斜に構えていたけど、どこかで重く苦しかった心が軽くなるのを確かに感じた。




