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1-13幕間1 冒険者認定拒否

 モルデンによって伝えられたスタンの『冒険者認定試験』に関する報告を受け、冒険者協会は緊急の協議を行うことを決めた。

 その協議に参加したのは通常の担当者ではない。

 各国にある冒険者協会の代表とその側近達だ。

 

 蒼ノ国アズーラの代表ノーダスと従者ティスト。

 朱ノ国フェネラの代表ナスールと従者ボルド。

 地ノ国ガイアスの代表サンデールと従者ディンパ。

 深雪ノ国グラシアの代表プロスペートと従者シエロ。

 

 代表達が席に着き、側近はその後ろに立っている。

 今回の司会は彼らを呼んだノーダスが務める事となっているが、その議題がスタンの1件だけではない事は彼らもわかっていた。


 まず、ナスールがノーダスに話しかけ会話が始まる。


 「ノーダス。再び直に会って会話することができて嬉しく思う。しかし、会議であればヴィジョンを通してではダメだったのか? 急を要するとのことだったが、それならばなおの事ヴィジョンを使えばよかったと思うのだが?」


 ヴィジョンというのは、魔力を使って遠方の相手に会話や映像を送ることができる道具。

 壁に立てかけるほど大きなものもあれば、個人が携帯する小さなものもあり日夜開発と研究が進められている。

 残念なことにダンジョンの中では、魔力濃度が利用可能な範囲を超えてしまっているため音や映像の乱れが強く実用に至っていない。


 ナスールの疑問にノーダスが答える。


「できれば使いたかったが、ヴィジョンは通信の安定性と速度を優先しているため通信の気密性が著しく低い。今回はいつものように記者たちの飯のタネにしてやるわけにはいかんのでな。」


 会話に割って入ったのは、サンデールだ。

 

「ノーダス。もったい付けるな。さっさと本題に入ってくれ。」

「そうだな。事前に伝えたと思うが、冒険者認定試験を行った少年がステータスを失うもしくは封印された状態となった。この件について協議させてもらう。」


 そこで手を挙げたのはプロスペートだ。

 

「早速ですまないが、報告書ベースではいまいちそのステータスを失うという部分が不明瞭だ。私だって多くの冒険者を見てきた。あり得るのかそんなことが?」

「私も同じ意見だった。しかし、事実だ。簡単に言えばステータスが0の状態と言えば分かりやすいだろうか。装備もスキルも利用するには求められるステータスが必要だが、彼にはそのステータスが無い。」


 一同が『なんという不幸だ』と顔をしかめる。

 そこでプロスペートが疑問を呈す。


「事情は分かったが、ノーダスどうしてそれがわかったのだ? まさか報告書にそう書いてあったからとうのみにしたわけではないのだろう?」

「そうだ。そのことを皆に伝えたかったのだ。そのために来てもらった。」


 皆がどういうことだとざわつく。


「事の詳細は、聖獣白虎様より直にご報告いただいた。」


 ”聖獣白虎”という発言に一瞬で周りが言葉にならない『ハァ!?』という感情で固まる。

 そして、身を乗り出してノーダスに詰め寄る。

 

「なにぃ!!? 聖獣様だと、おまえ、聖獣様に会ったのか? 直接?」

「ちょっと待て、白虎様はグラシアが奉っている聖獣様だぞ! なんでお前なんだよ! 俺だって会ったことないのに・・・」

「ずるい、ずるいぞノーダス! よくも黙っていたな!!」


 わーわーぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる3人だったが、ノーダスが続けた言葉が再び彼らから言葉を奪った。

 

「そして、彼をそのような状態にしたのは、この10年姿をくらましていた厄災の獣、月の悪魔ルナティカスだ。」


 空気すら凍り付いたかのようにシンと静まり返った彼らは、声を震わせる。


「…ルナティカスだと。奴が、奴が再び現れたというのか!」

「10年前、唯一とり逃した厄災の魔物がついに…」

「あの時の被害がどれほどのものだったか、思いだしたくもないな…」


 3人は怒りとそして恐怖により拳を握りしめ震わせた。 

 その様子を見てノーダスが落ち着くように言う。


「皆落ち着いてほしい。幸いな事にルナティカスは白虎様によって撃退されており被害はほとんどない。」


 それを聞いた3人は大きくため息をついて腰を下ろす。


「許せノーダス。まさかルナティカスの名をもう一度聞くことになるとは思っていなくてな…」

「あの時破壊された地域はようやく復興し、流通も安定して人々も故郷に戻れるようになったというのに。」

「いつあれがどこで暴れ出すのかわからないとなると、どうしたって対応が遅れてしまう。」


 3人が頭を抱えだしたところでノーデンが続ける。


「皆のその気持ちはよくわかる。我々がこの職を先代から受け継いで日の浅いころにあの厄災が訪れ、苦労の日々が続いたからな。しかし、今回はルナティカスのみだ。あの頃の様な数体同時に行動されることは今のところないと考えられる。白虎様も玄武様や青龍様と連携し奴の魔力が検出されれば直ちに対応して下さると言ってくださった。我々は、人々が普段と変わらぬ生活が送れるように務める事と、もしもの際に備え取り決めを整備しよう。」


 そしてノーデンは事の詳細を各国の代表に話し、その経緯を踏まえた上でスタンの冒険者認定を今回行うかどうか、また彼のサポートをどのように行っていくべきかを話し合いたいと伝えた。


 まずナスールが意見を述べた。

 

 「我々冒険者協会は、冒険者について最低限の安全が担保できるかどうかを判断している。かつての実例でも、ステータス0程ではないが低い若者が仲間の協力を得て試験を達成した際に認定を与えた例がいくつかあるが、その若者達は他の冒険者と比べて死亡している率が高い。魔物もそうだがならず者と化した他の冒険者に襲われて死亡している報告がある。やはり認可すべきではないのではないか?」

 

 サンデールの意見はこうだ。

 

「試験は合格条件を満たしている。それならば資格を与えてやるのが筋ではないか? 確かに明らかに危険な状態ではあるが、冒険者が己の意思で冒険に行き命を落とすのならそれは仕方あるまい。それが事故なのか、魔物に食われるのか、他の冒険者に足元を掬われるのか、それだけの話だろう。まぁ、最後のならず者たちの蛮行については、治安ギルドを組織している我々の落ち度だ。人材を育て体制を強化せねばな・・・。」


 プロスペートはまた角度の違う意見だった。


「彼がルナティカスから呪いを受けているという事は、彼をルナティカスが狙うという事も十分に考えられる。むしろ彼を我々が保護すべきではないのか?」


 プロスペートの意見はサンデールが鼻で笑った。


「ハハッ、ルナティカスが襲ってきたらどう保護してようが守り切れんだろう。それなら冒険に出て死線を潜り抜け場数を踏んでいた方が生き残る可能性が少しは上がるってものじゃないか?」

「むう、一理ある。」


 プロスペートが少し考え、それぞれの折衷案を出した。


「ナスールは安全性、サンデールは危険への対処能力向上、私はナスール寄りの考えと言える。そうなると、我々が安全を担保できると判断できたダンジョンのみの活動に限定し、受けれる依頼も低レベルものに限定すると言うのでどうか? 我々だって元は冒険者だ。冒険に出たいというあの気持ちを止めるのは忍びないだろう。」


 サンデールの意見を飲んだプロスペートの案に対しナスールが、考慮すべき部分を提示する。

 

「危険度が低くても、ダンジョンでは何があるかわからない。むしろ彼に対し信頼できる冒険者を随伴させその知識や経験を学ばせた方がいいのではないか? 10年前は安全と考えられていた後方の支援に従事した冒険者達にも被害が出た。ルナティカスが現れた以上ダンジョンの危険性に対し認識を改めたほうがいい。」


 プロスペートは再度考えを巡らせる。


「ふむ。知識と経験か・・・。確かにそうだな。しかし、そう言ったものを一朝一夕で身に着けるのは・・・」


 と、そこに、プロスペートの従者シエロが割って入った。


「あ、すいません。その少年をデミーに入れて冒険者として育てるというのはどうでしょうか? それであれば我々冒険者協会としての責務を果たしていると思いますし、その少年も必要な物を手に入れられると思います。」


 この提案に、サンデールとナスールも同意した。

 

「なるほど、それは妙案だな。」

「俺も特に異論はないな。」


 意見がまとまったところで、視線がノーダスに集まる。


「ありがとう。よい内容になったと思う。ティスト、彼が入れそうなデミーはあるか?」

「少々お待ちください。」


 手元の小型ヴィジョンを操作しながらノーダスの従者ティストがデミーの状況を調査する。


「今の内容を満たせそうなデミーを調べて見ましたが、どこも空きがないようです。何分デミーの教員になる冒険者がいまだ少なく、良い授業を提供できる質の高いデミーとなるとやはり人気で・・・」


 一同がガックリときたが、ノーダスはならばと続けた。


「それならば、手の空いているものを直接彼の元に向かわせよう。ただ、話を付けるのに時間がかかる。それまでは彼に行動を起こしてもらいたくはない。事情が事情だけに外部に漏らすわけにもいかないゆえ、心苦しいが彼には冒険者認定を認めないと伝え、再度こちらからの通達を待つように送る。」


 ノーダスの意見に反対はなかった。

 だが、サンデールがノーダスに確認を行う。


「誰を送り込むつもりなんだノーダス。」

「『博識』を考えている。彼女なら彼の呪いに関しても何か対処ができるかもしれない。」

「いや…それはそうかもしれないが、ただの研究対象にされる気しかせんぞ。」

「…常識外れの状況には、常識の外で生きているものが適任と判断した。正直、『博識』の行動を管理する都合のいい状況でもある。」


 ノーダスの言葉に、サンデールが眉をひそめる。


「その、スタンと言ったか? そいつが、人間不信に陥らんことを祈っておこう。」


 こうして、スタンの処遇は決定されモルデンの元には『今回は冒険者認定を行わないが、事情を考慮して冒険者協会として対応を進めていくので別途連絡を待ってほしい』と連絡が届いた。











 

 

 

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