1-12話 俺の冒険は始まらなかった
気が付くとそこは、ギルドハウスにある俺の部屋のベッドだった。
「あれ? やっぱり夢?」
起き上がろうと体を起こしたら、体中にとんでもない激痛が走った。
「ぐぁッ…。いてぇ…。」
すると、誰かの声が聞こえた。
「そりゃぁそうだ。傷口は塞いだが蓄積されたダメージが抜けきっていないからな。」
声のする方を見る。
「あ、白虎様(自称)」
「自称は余計だ! 助けてやった恩人だぞこっちは!!」
「あ、すいません…。」
「まったく。まぁ、その様子ならお前は一応問題なかろう。」
『お前は』という部分ではっとする。
「そうだ。リンドー。リンドーはどうなったの!?」
「ああ、あの剣士はまだ意識を取り戻していない。お前と違って魔力を限界以上に消費した反動とルナティカスに負わされた傷が深くてな。しかし命は無事だ。」
「そっか、ありがとうございます。白虎様。」
「まぁ、それはさて置き…だ。」
それから、真面目な感じで白虎様は俺にこう言った。
「それよりも、問題はお前だスタン。」
え? 俺まだ何かあるの…?
「これを持ってみろ。」
そう言うと白虎様はどこからともなくショートソードを取り出す。
何の変哲もない普通のショートソードだ。
俺はそれを受け取る。
「少し辛いかもしれないが、いつものように剣を振ってみろ。」
「なんでまた。」
「いいから、こういうのは口で説明するより実際に体験した方が早い。」
「はぁ…。」
なんだ? どういうことだ?
腑に落ちなかったけど、とにかく言われた通りにいつもの素振りの感覚でショートソードを振ってみる。
「え? アレ? 何だこれ…」
剣がうまく振れない。
体の痛みでうまく動けないとかじゃなくて、ショートソードがやたらと重たく感じる。
それに、意識を集中しても魔力を流し込める感覚がない。
「わかるか? お前はルナティカスにステータスを封じられたんだ。」
「ステータスを封じられた…???」
その後、白虎様は俺にそれを説明してくれた。
「スタンよ。お前も知ってると思うが、冒険者の装備品(武器、防具、アクセサリー)は、基本的に扱うことが可能になるステータス要求値というものがある。それは個人が持っている肉体や知性と冒険者のレベルによって加算されていくものだ。」
冒険者には誰だってステータスがあり、簡単に言えばどのくらい強いかが数値化されたものだ。
「例えば鍛錬によって鍛えられた肉体がもつそもそものステータスがある。そして、冒険者がレベルアップすることで得られるステータスポイントがある。ステータスポイントは好きなステータスに割り振り可能だ。肉体が持つステータスが10でステータスポイントを5割り振っていた場合は、合計値の15が冒険者としてのステータスだ。この値が装備品によって求められるステータスを上回っていれば装備して扱うことができる。」
今手にしているショートソードのステータス要求値は筋力1だ。
こんなの、その辺の子供でもクリアできる。
それがこんなにも扱えないなんて…。
「ルナティカスはお前の魂に呪いを掛けた。冒険者としての力を奪う呪いだ。お前は、冒険者としてのステータスがなくなり、冒険者としてレベルを上げることもできない状態になっている。簡単に言うとステータス0になってしまった上に戦闘で魔物を倒しても経験値が得られない状態だ。」
「そんな…。」
「こんなことは言いたくないが…。お前の才能と秘めた力は、あのルナティカスを超えるほどだっただけに私としても無念だ。」
白虎様は俺に背を向けた。
聞きたくない。
聞きたくない。
「残念だがスタン。お前は冒険者にはなれない。諦めるんだ。」
俺の名はスタン・トラヴェリア。
ステータスが無く、レベルも上がらない、村を守るため、両親を探すため冒険者…になりたかった16歳。
こうして冒険者認定試験は終わり、そして俺の冒険は始まらなかった。
また一つ、俺は世界から大事な物を奪われたんだ。




