1-11話 月の呪い
聖獣。
それは、かつて太古の時代に危機を迎えたこの星を守り抜いた4体の守護者。
この世界に存在する4つの魔力を司る存在。
それぞれ、水の神『青龍』、炎の精『朱雀』、嵐の主『白虎』、陸の王『玄武』と呼ばれている。
危機を乗り越えた後、聖獣の力によってこの世界の大陸は1つとなり、その大陸を4つの国に分けてそれぞれの地域を聖獣たちが人々を守りながら統治していた。
やがて、人々の生活が安定すると聖獣は教えを守ることを伝え人々の元から離れ、この星の一部となったと伝えられている。
どういうわけか、その聖獣の1体である白虎様が俺の目の前に居て、ルナティカスというとてつもない化け物と対峙中。
だめだ。
実際にそうなっている光景を目の当たりにしているのに、脳みそが『いや~もうここまで来たらこれ夢でしょ?』という反応しかしない。
いや待て、そういえば俺、死にかけてなかったか?
これ死ぬ間際に見てる変な夢か何かなんじゃ…
『はっはっは。そんな能天気な事を考えていられるようなら大丈夫だな。』
突然頭の中に声が聞こえてきた。
『まぁとにかく聞け。信じられんだろうが、俺はお前たちが白虎と呼んでいる存在だ。』
もうそういう事にしよう。
『今、お前とあの大剣使いに俺の力を分けて回復させているところだ。魔獣ルナティカスに気が付かれて攻撃されるのは避けたい。じっとしていろ。』
えっリンドー生きてるの!!
『ああ。大したものだ。状況を見ていたが、あの土壇場でユニークスキルを発動させ本来使えないスキルを使用可能にした豪胆さには恐れ入ったぞ。』
なんだそれ、よくわかんないけど、まぁ、俺の師匠だからね。
リンドーは凄いんだよ。
『だから安心して後は任せておけ。』
そして、白虎様とルナティカスのレスバが始まった。
「久しいなルナティカス。ダンジョンの中に出てくるとはよく考えた。おかげで見つけるのに苦労したぞ。」
「ダンジョン・・・? なるほど、我らから奪った力を転用してこの世界を作っているのだな。白虎よ。」
「まぁそうだが、お前らよりもずっと有効に活用してやってるんだ。感謝してくれてもいいんだぜ?」
「フン。そう言うのは、お前たちの言葉で『盗人猛々しい』というのだ。」
面識あったのかこの二人。
「やけに喋るじゃねぇかルナティカス。長いこと一人で寂しかったのか? それとも、何かいい事でもあったか?」
「ふん。挑発にもなっておらんぞ。まぁ、そうだな貴様たちを滅ぼす手段が見つかったのは喜ばしい事ではある。」
「ほぉ…、ならその手段とやら、ここで試してもらって構わないんだぜ?」
「貴様一人では観客が足りぬというもの。」
「つれないねぇ。」
聖獣VS魔獣、世紀の大決戦見せてくれてもええのよ?
「白虎よ他の聖獣共にも伝えておけ、いずれこちらから会いに行ってやる。楽しみにしておけとな…。」
「おいおい、誇り高き魔獣様が俺のような者を前に尻尾巻いて逃げるおつもりかい?」
「我の誇りか…。そのような物、貴様ら聖獣の命を取るこの使命に比べれば些事。」
お前目的とかあったのかよ。
「この聖獣白虎が逃がすと思うのか?」
「クックック。確かにお前に追われれば我とて容易に逃げられぬ。しかしなぁ…」
ルナティカスがその瞳を紅く輝かせ、その輝きと同じ光が俺の体を包み体の中に溶けて行った。
「貴様何をしたッ!?」
「さあな。答える義理などない。さらばだ。時が来れば貴様ら全員を殺してやる。首を洗って待っているがいい。」
「待て!!」
え、俺やっぱ死ぬの!?
『落ち着け!! 俺がみてやる。』
でも、言い伝えだと白虎様って脳筋じゃないですか…、回復とか浄化とかって青龍様の分野じゃ…
『す、朱雀よりはマシだ。』
あ~、ほら自信ないんじゃないですか。
『おま…、少しは言い方ってものがあるだろう!?』
そうこうしている内に、ルナティカスが空間を裂きその中に飛び込む。
「さらばだ。」
そう言い残して、ルナティカスは空間の裂け目に消えていった。
俺の体に、消えることのない『月の呪い』を残して。




