表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話「カッパ町コン」

 「颯太くん、次はこれや!」

 ある夕方、商工会館に呼び出された颯太は、またもや山下に腕を掴まれていた。テーブルの上には手描きのチラシが並んでいる。そこには大きく「カッパ町コン開催!」と書かれていた。


 「……町コン?」

 「そう!青年部で考えたんよ。若い独身の男女を集めて、みんなカッパメイクで変身して婚活するんや。顔が隠れれば恥ずかしゅうないし、話も弾むやろ?」

 「いや、婚活とカッパを組み合わせるって……」

 呆れる颯太をよそに、山下は胸を張る。

 「この前の相撲もダンスも大成功やった。次は恋愛や!町の未来を担うカップルを作らんと!」


 勢いに押され、結局颯太は引き受けることになった。


 ——開催当日。

 会場は川沿いの旅館の大広間。入口には「カッパ町コン」と大きな横断幕が掲げられている。

 受付を済ませた男女たちは、控室で順番にメイクを受けた。


 緑の下地を塗り、頬に軽い鱗模様を走らせる。鼻筋には影を入れ、額には皿を装着。だが今回は「怖すぎず、でも可愛くもなりすぎない」よう加減に工夫した。

 「これなら、話しかけやすそう」

 鏡を覗いた女性がほっと笑い、隣の男性も照れくさそうに頷いた。


 やがて、二十人近い男女がカッパへと変身。大広間に入ると、奇妙で愉快な光景が広がった。カッパ姿の男女が向かい合い、緊張で固まったままぎこちなく自己紹介を始めている。


 「趣味は……釣りです」

 「わ、私も!カッパだから似合うかもね」

 笑いが起きると、次第に会話が弾んでいった。メイクの効果なのか、素顔の時よりも恥ずかしさが和らぎ、誰もが自然に笑えていた。


 フリータイムになると、あちこちでカッパ同士の笑い声が響いた。スマホで記念撮影をしたり、きゅうりをかじりながら語り合ったりする姿も見える。

 颯太はその光景を端で見守り、心の奥が温かくなった。——特殊メイクが、人と人の距離を縮めている。


 やがてイベントも終盤。

 司会者の合図で「告白タイム」が始まった。会場の空気が一気に張りつめる。


 一人の男性が、おずおずと前へ出た。内気でずっと端に座っていた青年だった。緑のメイク越しに見える瞳が震えている。

 「ぼ、僕……その……佐和さんと、もっと話してみたいです!」


 一瞬、会場が静まり返った。視線が佐和と呼ばれた女性に集まる。彼女は頬を赤く染め、やがて小さく頷いた。

 「……はい。私も、お願いします」


 次の瞬間、会場は拍手に包まれた。

 「おおー!カッパカップル誕生や!」

 山下が叫び、他の参加者も手を叩いて祝福する。涙ぐむ人までいた。


 颯太は胸の奥が熱くなった。

 ——特殊メイクは人を別の存在に変える。だが、その本当の力は「心の壁」を溶かすことなのかもしれない。

 笑い合い、素直になり、勇気を出せる。あの日の事故で失ったと思っていた「人と人を繋ぐ力」が、今、自分の手から再び生まれていた。


 イベントが終わり、参加者たちが名残惜しそうに会場を後にする。その背中を見送りながら、颯太は静かに呟いた。

 「……俺のメイクで、人が幸せになれるんだ」


 川のせせらぎが聞こえる夜。カッパ町コンは、田主丸の未来に小さな灯をともした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ