第3話「女子高生カッパダンス」
カッパ相撲大会の翌週。颯太が宿の一階で朝食をとっていると、店の女将が声をかけてきた。
「颯太さん、あんたを探しとる子たちがおるよ。高校生みたいやけど」
玄関に出ると、制服姿の女子高生が三人、そわそわと待っていた。リーダー格らしい短髪の子が勢いよく頭を下げる。
「松岡さん!お願いがあるんです!」
「え?俺に?」
彼女たちの要望は意外なものだった。
「カッパのメイクでダンス動画を撮りたいんです。きゅうり持って、踊って、それをネットに上げたい!」
颯太は思わず固まった。特殊メイクといえば映画や舞台のためのもの。まさかSNS動画に使うなんて、これまで想像したこともない。
「……本気でやるの?」
「本気です!田主丸のカッパを、若い人にも知ってもらいたくて」
目を輝かせる女子高生たちを前に、颯太は少しだけ笑ってしまった。彼女たちはかつての自分を思い出させる。無謀でも、夢中で何かを広げようとする姿勢。
「分かった。ただし本気のカッパになるからね」
数日後、町の公民館に女子高生たちが集合した。颯太はメイク道具を広げ、三人を順に座らせていく。
緑の塗料を肌にのせると、キャーキャーと悲鳴が上がる。頬に小さな鱗模様を描き、額に皿を装着するころには、笑い声と興奮で部屋がいっぱいになっていた。
「わ、わたしもう鏡見れん!怖そう!」
「いや絶対かわいいって!」
颯太はそんなやりとりに苦笑しつつ、最後に唇へ鮮やかな赤をのせた。コントラストによって、可愛らしさと奇妙さが同居する。
完成した三人のカッパ姿に、女子高生たちは大騒ぎだった。
「やばっ!想像以上に本格的!」
「これで踊ったら絶対バズるよ!」
撮影は町の川沿いで行われた。夕暮れ、オレンジの光を背に、三人はきゅうりを手に踊り始める。振付はコミカルだが、必死で笑いをこらえているのが伝わってくる。
「カッパ!カッパ!」と声を合わせながらステップを踏む彼女たちの姿に、通りすがりの人々も立ち止まった。
「何しよると?」
「え、かわいい!」
自然とスマホが向けられ、即席の観客が集まっていく。
後日、動画はSNSに投稿された。
タイトルは「#カッパチャレンジ」。
カッパ姿で踊る三人のコミカルさと可愛さはすぐに拡散され、数日も経たぬうちに再生回数は十万を超えた。コメント欄には「福岡のどこ?」「私もやってみたい!」と全国から反応が寄せられる。模倣動画が次々に上がり、町の名前は一気に広まっていった。
商工会の山下がスマホを片手に颯太のもとへ駆け込んできた。
「颯太くん!見たか!?町が一気に有名になっとるばい!」
「……ほんとだ」
颯太も画面を見ながら、信じられない気持ちだった。自分のメイクが、舞台でも映画でもなく、ただの若者たちの自由な遊び心と結びついて、こんな力を持つなんて。
女子高生たちは照れくさそうに笑っていた。
「松岡さんのおかげです!」
「また新しいネタ、やりたいですね!」
その無邪気な言葉に、颯太の胸が熱くなる。
——自分の技術はまだ人を笑顔にできる。
しかも、それは想像もしなかった形で広がっていく。
川面を渡る夕風に吹かれながら、颯太は静かに拳を握った。
「……面白くなってきたな」