第8話『連携の布』
土の匂いが立ち上る。山間の訓練場に朝霧が垂れこめ、樹々の間に組まれたバリケードが人工の戦場を作り出していた。
「──D級織士チーム、準備完了!」
柚葉は軽く息をつきながら、訓練布を拳に巻きつける。その隣で、織部紅子が花のような笑みを浮かべていた。
「ねぇねぇ、柚葉ちゃん。今回は“連携”が大事なんだって。頑張ろうねぇ♪」
「……うん。でも、毒は味方にも効くから、気をつけてね」
「えぇ〜? わたし、うっかりしてるから〜……ふふっ、冗談よぉ」
柚葉は苦笑しながら、もう一人の仲間──無口な長身男子・三笠と視線を交わした。彼は雷布の織士で、手首から白い雷糸をチリチリと放っていた。
火渡翔麻の声がスピーカー越しに響く。
「これは《模擬演習》だ。が、油断すんな。訓練用とはいえ、布は本物。使い方次第で死人も出る。相手はC級教練チームだ。かかってこい、若葉ども!」
ゴォォン──! 開始の鐘が響いた。
「三笠、先に右の林を潰して!」
柚葉の指示で、雷が走る。三笠の布が樹々をなぎ払い、敵の布が一瞬たじろぐ。
「毒花、ばらまくね〜♪」
紅子の布が空中に舞い、無数の花びらが散った。風と毒が合わさった技がC級の布を牽制する。
柚葉も火布を解き放つ。「焔撃・双輪!」。炎の弧が空を裂いた。
──連携が、意外とうまくいっている。
だが次の瞬間、C級教練のひとりが奇襲をかけてきた。三笠が間に合わず、柚葉の背を狙う布が伸びる。
「柚葉ちゃん、危な──」
紅子の布が咄嗟に割って入り、毒の衝撃が攻撃を押し返した。
「……ありがと」
「仲間だもん、当然でしょ?」
そう言った紅子の笑顔は、いつになく真剣だった。
火渡が苦笑交じりにモニターを眺める。
「──チームの“綻び”を突こうと思ってたんだけどな。やるじゃねえか紅子」
模擬戦は柚葉達の勝利で終わった。
夕暮れの中、火布を巻き直す柚葉に紅子が近づいてくる。
「ねぇ柚葉ちゃん。あたしたち、強くなれるよね?」
「うん。きっと」
火の布と毒の布が、静かに風にたなびいていた。