表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絣戦記   作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/48

第44話『双影、呪いを裂く』

廃れた山寺に、風が鳴く。石段を一歩ずつ登る男の影――黒羽迅。

 そこに佇むは《夜河連・第壱柱》、呪いを操る僧侶カッパ・蛇目。


「来たか、影の子よ。影に呑まれたまま、ここにたどり着いたか」


 蛇目の声はいつも通りの静寂を纏っていた。だが、迅はもう、動じなかった。


「……あの日の俺は、影に負けていた。だが今は違う」


「そうか。ならば――見せてもらおう。君の影が、本当に泣いていないのかを」


 蛇目が掌をかざす。空間が軋み、空気が黒く染まっていく。

 呪符結界――過去と幻影の檻が、再び迅を閉じ込める。


 現れたのは、訓練生時代に失った二人――アカリと隼人。


「どうして、助けてくれなかったの……迅さん……!」


 幻影のアカリが泣きながら問いかける。

 隼人は血塗れの顔で呟いた。「俺たち、まだ戦いたかったのに……」


「……わかってる。お前たちを、俺は――見捨てたんだ」


 迅は目を逸らさなかった。


「だけど今は違う。あの時と違って、俺には“背負う力”がある」


 影が、ざわりと震えた。迅の背に、黒き羽根のような布が現れる。


「《影布織核・第二解放》――起動」


 布が影と同化し、迅の足元から“もう一人の迅”が立ち上がる。

 双影――迅とその分身が、蛇目に向かって駆けた。


「斬ってみろ。だが覚えておけ、この身を傷つけるたび――君もまた、同じ傷を負う」


 蛇目の“呪返し”が発動。迅が放つ一撃は、同時に彼自身の身体にも返る。


 それでも迅は止まらない。


「構わない……俺は、痛みを拒まない。苦しみを斬ってでも、お前を止める!」


 迅と“影”の刃が、同時に蛇目を貫く。影の分身は結界の裏から回り込み、

 逃げ場のない双撃が、蛇目の護符核を切り裂いた。


 呪いの術式が崩れ、廃寺に静寂が戻る。


 蛇目は崩れ落ち、細く笑った。


「……やっと……“影”が……誰かのために、斬ったな……」


「俺の“影”は、もう泣かない。あの日の俺も、二人の幻影も……全部、この刃で終わらせる」


 黒羽迅の影がふわりと広がり、夜空に溶けるように消えていく。


「アカリ……隼人……ありがとな」


 その呟きだけが、夜の風に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ