第41話『雷、森を裂く――雷蔵vs鬼雫』
森が鳴いた。深く、低く。裂けたような音と共に、雷蔵の蹴りが空を裂き、雷鳴が木々を吹き飛ばす。
「――雷迅連襲」
閃光のような連撃。雷を纏った拳が、鬼雫の胸板にめり込んだ。だが。
「遅いぞ、雷蔵ォ!!」
鬼雫の筋肉が膨張する。岩のような巨腕が雷蔵をはじき返し、数十メートル先の岩に叩きつける。大地が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立った。
「やはり貴様、生きていたか」と雷蔵が立ち上がる。裂けたマントの奥、手甲から電撃が迸る。
鬼雫の胸には、かつて雷蔵が放った“雷鳴布断”の傷跡が残っていた。だが、そこには新たな根のような筋が走っている。
「……第六柱の力か」
「ああ。槐だ、俺を“森の鬼”にしてくれた。再生は三倍、パワーは五倍。お前一人じゃ、もう止められんぞ」
鬼雫が突進する。樹をなぎ倒す勢い。雷蔵は地を蹴る。
両者、ぶつかる。
拳と拳。雷と筋肉。世界が弾けたかのような衝撃。
「……ならば、こちらも応じるまで」
雷蔵の気配が一変する。周囲の空気が、紫電に焼かれた。
「織核、第二解放――《雷神迅衣・極断》」
手甲と足甲の布が雷の羽衣となり、彼の周囲を駆ける。その姿は、まるで雷神そのもの。
「……面白ェ!!」
鬼雫の全身が膨張する。筋肉が唸り、血管が踊る。再生能力に任せた“捨て身の猛攻”――
「喰らえェェッ!! 筋爆――衝裂掌!!」
岩をも砕く拳が、雷蔵を襲う。
しかし。
雷蔵の姿が掻き消えた。
「上か!?」
「否――“雷”は直線だ」
真横。空間を裂く速度で、雷蔵が駆ける。
「……雷迅穿閃」
一閃。雷の布刃が、鬼雫の腹を横薙ぎに裂いた。筋肉が再生するより速く、布が体内を走り抜け、爆ぜる。
「ぐぉあああああああッ!!」
巨体が揺らぎ、膝をつく。が、それでも――鬼雫は笑った。
「まだだ……雷蔵……お前の拳は、轟に届かなかった」
雷蔵の瞳が揺れる。
「……それを言うか」
鬼雫が立ち上がる。瀕死の傷から、無数の“根”が伸び、地面と融合していく。
「槐の力だ。この森ごと、俺の身体だ!!」
地面から無数の蔦が生え、雷蔵を絡め取ろうとする。
「……ならば、焼き払う」
雷蔵の体が光に包まれる。
「雷神迅衣――終の型」
その瞬間、森全体に雷鳴が走った。
《雷獄・断雷衝》
次の瞬間、雷が落ちた。
地と空を繋ぐ一閃。鬼雫の巨体を貫き、根を、森を、焼き払った。
「が……ふっ……」
燃え崩れる鬼雫の体。その口元には、なお笑みがあった。
「……やっと……追いついたか、轟……」
静かに、鬼雫の巨体が崩れ落ちた。
雷蔵はただ、拳を握る。
「俺はまだ……お前の拳を超えてはいない」
雷鳴が止む。森に、静寂が戻った。
雷蔵は背を向け、次の戦場へと歩き出す。




