第40話『焔哭の宴・哭火戦 開幕』
焔の大地。赤く染まる空の下、哭火は両腕を広げて狂気に満ちた声で叫んだ。
「泣け! 笑え! 怒れ! 狂え! 五感と感情の宴に、お前たちの“理性”など要らぬッ!!」
《焔哭の結界》が再び波紋のように広がる。炎の霧が揺らぎ、視界も音も、温度さえ歪んでいく。
火渡翔麻が、真っ直ぐに哭火を見据えて踏み出した。
「だったら……俺がぶち壊す! “お前の世界”を!」
《爆焔織核・第二解放》。翔麻の背に、炎の双翼が燃え上がる。
「烈火翔刃!」
灼熱の翼が展開されると同時に、翔麻の体が空中へと跳ね上がる。真紅の斬撃が何本も降り注ぎ、哭火の足元の地形を抉った。
「ヒッヒ……それが“痛み”だ……それでいい……! もっとだ、もっと!」
哭火の全身から吹き上がるのは、熱幻によって形を成した“幻影火”。かつて哭火が殺した者たちの顔をして、炎が襲いかかってくる。
「翔麻、気を抜くな! あれは本物の火じゃない。だが、精神を焼くぞ」
凪が警告を飛ばすと同時に、《蒼蛇封刃》を展開。水の龍が幻影火を切り裂いて翔麻を援護した。
「助かった、凪姉! でも……アイツの力は俺の火布と相性最悪かもな」
「だからこそ突破口になれるのよ、翔麻君」
ふわりと現れたのは、織部紅子。第二解放状態の《毒花織核》から、妖艶な花弁が咲き誇る。
「瘴花結界——発動♡」
毒布の花が咲き乱れ、哭火の視界を埋め尽くす。
「何だこの匂い……!? 視界も……聴覚も……!」
「私の花は五感を狂わせる。貴方の結界を、そのまま“裏返した”だけよ」
哭火がわずかに後退する。
そこへ、影が疾走する。
「《双影殲斬》——」
黒羽迅の本体と影分身が左右から突撃。哭火の右肩を斬り裂いた。
「っ……!」
初めて、哭火の表情から笑みが消えた。
「お前たち……その布、第二解放を超えてやがるな……!」
「そうよ。私たち、もう“誰かの犠牲で立ってる”存在じゃないの」
久絣柚葉が、火の翼を翻しながら現れる。
「この力は、自分の意志で掴んだ。だから、誰にも渡さない!」
《焔翼織核・完全解放》。柚葉の火翼が広がり、哭火の結界を一気に切り裂く。
「翔麻!」
「おうよ!」
二人の炎が交差した瞬間——。
「《炎衝双翼・陽炎ノ舞》!!」
柚葉と翔麻の合体技。二重の火翼が哭火の胴体を貫いた。
「がはッ……!」
哭火の布装甲が裂け、体が吹き飛ぶ。だが、笑っていた。
「まだだ……俺の“焔哭”は終わらない。まだ、足りねぇ……!」
その体が灼け崩れながらも立ち上がる。
「痛みが、生きてる証だろ? 俺は……その“証”を……!」
——だが、背後から
「それ以上は、許さない」
現れたのは凪
水城凪の冷ややかな瞳が、哭火の心臓を射抜く。
「あなたの炎は、ただの支配。誰の命も、燃やしていい火じゃない」
《蒼蛇封刃・改》。水の龍が哭火の布核を凍結させ、動きを封じた。
「ぐっ……が……ぁ……」
仲間たちの力が重なり、ついに哭火はその場に崩れ落ちた。
「……終わったか?」
翔麻が息を切らしながら周囲を見渡す。
だがその瞬間、遠くで轟音が響く。
——バキィィィィン!
雷のような衝撃とともに、空が閃いた。
柚葉が振り返る。
「今の……雷蔵さん?」
影が一つ、森の奥で膨れ上がっていた。
「まさか、別の柱と……!」
地鳴りが始まる。
哭火を倒した彼らの前に、新たな戦いの足音が近づいていた——。




