第39話『出撃、哭火の地へ』
《織守本部・地下指令室》。雷蔵の一言が、静かに響いた。
「……全員、第二解放を確認した。これより“哭火”討伐任務を開始する」
緊張が走る。隊員たちは決意を瞳に宿し、各々の布を纏いながら立ち上がる。
「今回の出撃は分隊制だ」と雷蔵が続ける。「本隊は哭火がいる本部に突入。俺は……別行動を取る」
黒羽迅が眉をひそめた。「別の柱の気配か?」
雷蔵は無言でうなずき、マントを翻し、闇に消えた。
出撃を告げる太鼓が鳴る。
翔麻、柚葉、紅子、凪、迅。C級、A級とS級の混合主力部隊が、哭火の待つ“焦熱の地”へと降り立つ。
そこはすでに火の海だった。
「っ、なんだこの感覚……」
紅子が顔をしかめる。地形の炎は自然ではない。空気は湿っているのに喉が焼け、視界が歪んでいた。
「《焔哭の結界》ね……哭火の“火”はただ燃やすだけじゃない」
水城凪が冷静に言う。眼前にはB級クラスのカッパが数十体。だが動きがどこか異常だ。表情が笑っているのに、目だけは泣いていた。
「操られてる……感情まで」
黒羽迅が影を伸ばそうとした瞬間、何かが彼の背後に囁いた。
——《お前は、誰に殺されたい?》
迅の動きが止まる。影が崩れ、過去の記憶が脳裏に響く。
紅子もまた、耳元で“母の声”を聞く。
——《毒なんかで人を救えるわけがない》
涙が零れ、布が制御不能に乱れる。
「まずい……皆、感情を侵されてる……!」
柚葉が叫びかけたとき、翔麻が動いた。
「……皆! 俺の“熱”を信じろ!」
炎の双翼が一閃し、仲間たちの間に火の壁を張る。
「これは幻の火じゃねぇ! 本物の熱だ! 本物の声だ!」
翔麻の叫びと熱が、凪の意識を覚醒させた。
「……ありがとう、翔麻。なら私は、道を開く!」
《蒼蛇封刃》——水の龍が空を走り、敵カッパを弾き飛ばす。
その隙を縫うように、柚葉が翔ぶ。
《焔翼織核・完全解放》
翼が灼熱の旋風を巻き起こし、哭火の結界を逆風で裂く。
そして、銀髪の凪と柚葉の連携が炸裂した。
「“本物”の布で、“偽り”を断つ!」
火と水の螺旋が哭火の布人形たちを一掃し、遂に本体の姿が露わになる。
そこに立っていたのは、鬼の面をかぶった異形のカッパ。
焔を纏いながら、狂気のような哄笑を漏らす。
「ヒヒヒ……“痛み”は、喜びだろう? “恐怖”は、生きてるってことだ……!」
哭火——夜河連・第七柱。
「来い、織守ども! 焔哭の宴を始めようかァ!!」
一方その頃、雷蔵は全く別の地点に降り立っていた。
「やはり……生きていたか、“鬼雫”」
湿った気配が森を包む。木々の間に、鎧の巨躯が現れる。
「久しいな、雷蔵。轟の弟子よ。あの日の続きを、やろうか?」
雷が走り、雷蔵の瞳が鋭く光った——。




