第4話『織士たちの食卓』
「──でさ、S級の雷蔵先輩が一瞬で五体のカッパを消し飛ばしたって話、ほんと?」
訓練の後、織守久留米支部の食堂は訓練生たちの賑やかな声で満ちていた。
金属トレイの上に並んだ筑前煮と麦ごはんを前に、柚葉は少し居心地の悪さを感じていた。
「ほんとよ。あの人、“雷迅の織神”って異名持ってるんだから」
向かいに座る紅子が呆れたように言いながら、優雅に小鉢を箸でつつく。
その隣には、少し太めの男子訓練生がむしゃむしゃと肉じゃがを頬張っていた。
「俺、D級の三間。よろしくな! いやー柚葉ちゃんすげーよ、あの暴走止めたんだろ? 俺、ビビって鼻水出たもん!」
「……ありがと」
柚葉は小さく笑う。ここにきて初めて、少し心が緩んだ気がした。
「でもさ、階級ってどんな風に決まるの? 火渡さんはB級って言ってたけど……S級とか織神とか、どこまであるの?」
三間が口いっぱいにごはんを詰めながら首を傾げた。
「ざっくり言えば、D級が訓練生と新人。C級は実戦経験あり。B級からが“上織士”で、部隊長クラスの力を持つ」
紅子が指で順を追いながら答える。
「A級は筆頭織士。久留米支部でも数人しかいない。S級は……もう別格よ。人じゃないって言われてるくらい」
「雷蔵さんもその一人?」
「そう。あとは“影縫いの迅”──黒羽迅もね。彼もS級よ」
「……!」
柚葉は思わず背筋を伸ばした。あの夜、弟を喰らおうとした怪物を一瞬で切り裂いた男。
あの人が、S級……。
「ちなみに、敵側──カッパにもランクがあるのよ」
紅子が味噌汁を啜りながら続ける。
「D級は野良カッパ。無秩序で単独行動が多い。C〜B級になると群れを率いたり、人を狩る知性がある。
A級以上は“夜河連”っていう組織に属してる。で、そこの幹部七人──《七柱》がS級。最強」
「七柱……?」
「蛇目、鬼雫、葬濡、氷雨、ウロ、槐、哭火……名前だけで怖いでしょ?」
紅子は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「やつらは“布を憎むカッパ”よ。久留米絣の力を恐れていて、だからこそ潰しにくる。
私たち織士の布と、カッパの泥がぶつかるのは、ある意味、土地の因縁そのものなの」
柚葉は、湯気の立つ味噌汁をじっと見つめた。
弟があの泥に飲まれた夜の記憶が蘇る。身体が震える。けれど、逃げるわけにはいかない。
「……私は、負けたくない。弟を、無駄死にさせたくない」
ぽつりと呟いたその声に、紅子も三間も手を止めた。
「じゃあ頑張りなさいな。布は心に応えるわ。──血が流れても」
「……はい」
その夜、柚葉は初めて訓練場に一人で立った。
月明かりの中、火布が静かに腕に絡みつく。
(弟を奪ったカッパ。そして、その奥にいる“七柱”……私は、必ずたどり着く)