第34話『雷神の深奥』
本部――中枢エリアが、蒼白い爆風に包まれていた。
火渡翔麻、水城凪、黒羽迅、柚葉、紅子……主力織士たちが集結していたが、夜河連の急襲により、既に五人とも深手を負っていた。夜河連・第六柱、槐。そして第七柱・哭火。二体のS級カッパが本部中枢に襲来したのだ。
「紅蓮斬……!くそっ、通らねぇッ!」
「水鏡封陣も貫かれた……。この二体、桁違い……!」
呻くような声の中、誰かが呟いた。
「……終わったのか……?」
その時だった。
空気が一瞬、凍りついた。
直後、雷鳴のような音が地の底から響き渡る。中枢の天井が、雷光に裂けた。
「――下がれ。ここから先は、俺が行く」
その声に、一瞬で空気が変わる。
雷蔵だった。
全身から蒼い雷を纏い、彼はゆっくりと歩み出る。槐と哭火、二体のS級が同時に動きを止める。
「来たな……雷迅の鴉」
「待っていたぞ……織神、雷蔵……!」
次の瞬間、雷蔵の背後から、“布の羽根”が音もなく広がる。電光で織られたかのような手甲と足甲。地面が、空間が、雷に焼かれて軋んだ。
「《雷迅織核・第二解放》――《雷神迅衣・極断》」
布が生き物のように身体に巻き付き、雷蔵の周囲の空気が爆ぜる。誰もが言葉を失った。ただその力に、見入っていた。
「一撃で終わらせる」
そう言って雷蔵が地を蹴ると、光そのものが走った。空間が“時間差で裂けた”ように、哭火が肩から崩れ落ち、槐の巨体に深い裂傷が走った。
誰も雷蔵の動きを見ていなかった。ただ、二体の柱が同時に地に沈んだ事実だけが残った。
静寂が訪れる。
火渡が呻くように呟いた。
「……あれが、“第二解放”……?」
雷蔵は彼らに背を向け、ぽつりと呟く。
「織核と、完全に融合する。そのためには、自分自身と向き合う必要がある……」
振り返り、仲間たちに視線を投げる。
「お前たちも来い。生き延びたいなら、第二解放に辿り着け」
その言葉は、激戦の中で敗北感に沈みかけた五人の心に、深く刻み込まれた。
そして次の日から、織守の主要戦力は、それぞれ“己の布と向き合う旅”へと赴くことになる。




