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絣戦記 カスリクロニクル  作者: やしゅまる
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第二十五話『昇格査定』

久留米市・織守本部。

静かな執務室に、緊張が走っていた。


「……間違いないな。火渡翔麻が、第四柱“氷雨”を討伐したと?」


織守の幹部たちが顔を見合わせる。

記録映像には、燃え上がる水上ステージ。全身を血に染めながらも戦い抜いた翔麻の姿が、克明に残っていた。


「B級が、単独でS級カッパを……前例がないぞ」


「だけど、やったのよ」


水城凪が静かに言った。

「奴の戦い方にはまだ粗さもある。だが、“誰かを守るために戦う”という信念が、一線を超えさせた」


「ふん……感情で動く者など、長くは保たん」


別の幹部が冷たく吐き捨てたそのとき、重い扉が音を立てて開いた。


「…………長く保つかどうかは、倒れた後にしか分からん」


黒い布をまとい、静かに現れたのは――雷蔵。


「雷蔵……!」


誰もが声を呑む中、雷蔵はただ一言だけ残して会議室を後にした。


「俺は、“火渡翔麻”をA級として認める。それだけだ」



数時間後、翔麻は治療室のベッドに座っていた。


傷は深かったが、命に別状はない。

そこに訪れたのは、織部紅子だった。


「おめでとう、翔麻くん」


「……何が?」


「A級、だって。まだ“試験昇格”扱いらしいけど。凪さん、喜んでたよ」


翔麻はしばし黙っていたが、やがて小さく笑った。


「……志朗、やっとちょっとだけ胸張れるよ」


「ふふ。じゃあ、あとは“もっと胸張れる翔麻くん”を、私が見守っててあげるね」


そう言って紅子はふわりと微笑み、部屋を出ていった。



夜。翔麻は墓地にいた。


小さな墓標の前に、燃え尽きた布の欠片を置く。


「……志朗。お前の“命”は、もう一度俺を立たせてくれた」


「ありがとな。お前の分まで、俺……戦うよ。守るよ」


月が雲間から顔を出し、翔麻の影を長く落とした。


A級織士――その称号は、まだ彼にとっては“通過点”だ。

本当に守りたいものを、この手に抱くために。

翔麻はまた、前を向いて歩き出す。


――続く。


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