第二十四話『決着の刻』
「いくぞ、“火渡 翔麻”……!」
氷雨が構えた刹那、水面が爆ぜる。
それはまるで巨大な水龍が翔麻を喰らい尽くそうとするかのような、水の奔流。
直後、無数の氷刃が空から降り注いだ。
「こっちも……負けてられねぇんだよッ!!」
翔麻の布刀が、咆哮のように炎を噴き上げる。
両手の《爆華双刃》が重なり、十字に振り抜かれる――!
「爆華・十ノ型……!」
空が割れた。
轟音と共に爆発した業火が、氷刃の雨を焼き尽くし、炎の渦となって氷雨に迫る。
「……面白い。だが、それが届くか?」
氷雨の身体を覆う“水鱗”が、まるで鏡面のように反射し、翔麻の炎を跳ね返す。
「くっ……!」
だが、翔麻は怯まなかった。
炎を纏ったまま、距離を詰める。血を流しながらも、一直線に。
「近づいたな……バカが」
氷雨が右手を掲げる。氷の刃が再び生成され、翔麻の首を狙って振り下ろされた――
だがその瞬間、翔麻の左手が動いた。
「……布が、炎じゃねえ!?」
そう。翔麻の布は“片方だけ”炎を収めていた。
右手は火、左手は“無炎”の状態に。
翔麻がにやりと笑う。
「“見せかけ”ってのも……作戦なんだよ」
翔麻の左の布刀が、氷雨の腹部に突き刺さる。
そこだけは“水鱗”の生成が追いついていなかった――炎の熱に意識を向けさせた隙だった。
「っ……!」
「終わらせてやるよ……志朗の仇をなァ!!」
翔麻の両腕が交差し、全身の布が灼熱を纏う。
「双爆・極焔斬ッ!!」
爆発にも近い音と衝撃。
燃え上がる火柱が、ステージ跡地を貫き、氷雨の身体ごと吹き飛ばす。
「──がはっ……!」
氷雨が遠くへ吹き飛ばされ、水面に叩きつけられる。
水は一気に蒸発し、濛々と白煙が上がる。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
翔麻は崩れ落ちそうな身体を支えながら、立っていた。
炎も、もうほとんど灯っていない。
やがて、白煙の中からゆっくりと氷雨が起き上がる。
だがその表情には、怒りも焦燥もない。ただ、どこか納得したように目を閉じた。
「……“生き残った”意味、あったようだな」
「…………ああ」
「....今日の戦いでお前は俺に敗北を与えた。だから、価値がある」
氷雨の体が、氷の欠片と共に霧散するように崩れ落ちていった。
翔麻はその場に膝をつき、静かに呟いた。
「……やっとだよ、志朗。……やっと、前に進める」
佐賀の夜に、風が吹く。
燃え尽きた布が、ふわりと宙を舞いながら、翔麻の肩に寄り添っていた。