第二十三話『氷雨、再び』②
「爆華──双刃ッ!!」
翔麻の布が咆哮するように燃え上がり、両腕に纏った炎の刀がさらに巨大化する。
火柱が舞い上がり、ダム跡地の水面を一気に蒸発させた。
「派手だな」
氷雨が呟いた瞬間、翔麻の姿が掻き消える。
次の瞬間――
「喰らいやがれえええッ!!」
灼熱の双剣が、上下から氷雨に迫る。
空と地の両断。まるで十字に燃え尽きる焔の結界。
爆ぜる音と、爆風。水上ステージの鉄骨すら吹き飛ぶほどの炎が、空間を染める。
…が。
「終わり、か?」
白煙の中に、確かに立っていた。
無数の氷鱗を纏い、まるで“氷の鎧”と化した氷雨が――無傷で。
「……嘘、だろ……」
「残念だったな、“火渡 翔麻”」
氷雨の足元から伸びた水が一瞬で氷の槍に変わり、翔麻の腹を貫く。
鈍い音。炎が消える音。翔麻の身体が、ぐらりと傾いた。
「これで終わりか。お前の焔は、結局、あの夜で止まったままだったな」
氷雨の冷笑が、突き刺さる。
翔麻は膝をつき、崩れ落ちかける。
(俺は……また、守れなかったのか……志朗。何のために、生き残ったんだよ……)
血が流れ、視界が滲む。
そのとき――
「……違う……っ」
翔麻の瞳に、再び火が宿る。
掴むのは、腹を貫いた氷の刃。それを引き抜くと、歯を食いしばって立ち上がる。
「俺の……“焔”は……まだ……消えてねぇんだよ!!」
叫びとともに、翔麻の身体を纏う布が爆ぜるように炎を吹き上げる。
──その炎は、怒りや復讐じゃない。
仲間の声、志朗の想い、自分の誓いが燃やす“生きる火”だった。
「ほう……立つか」
氷雨が、ほんの少しだけ、瞳を細めた。
「そいつを見せに来たのなら……続きを受けてやる。だが今度は、命を賭けろ。“火渡 翔麻”」
ステージの水面が、再び凍り始める。
氷雨が静かに両手を構え、全身の水鱗が一枚ずつ逆立つ。
翔麻は腹を押さえながら、ゆっくりと布刀を構える。
「上等だよ……氷雨。お前を倒して、俺は──前に進む!」
――灼熱と絶対零度が、再びぶつかる。