表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絣戦記 カスリクロニクル  作者: やしゅまる
24/36

第二十三話『氷雨、再び』

佐賀県・嘉瀬川ダム跡。

夜霧に包まれた巨大な水上ステージ跡地に、ひとりの青年が足を踏み入れる。


「……ここだな。氷の怪異ってやつが出たっていうのは」


火渡翔麻。《織守》の上織士。肩に巻いた赤い布が、微かに熱を帯びて揺れる。


かつて賑わったダンスイベントの特設会場――だが今は朽ち果て、水面には冷たい霧が立ち込めていた。

そしてその中心で、待ち構えていたのは――


「来たか。あの時と、何も変わらんな。“火渡 翔麻”」


霧が裂け、浮かび上がったのは青鱗を纏った細身の異形。

夜河連・第四柱、氷雨ヒサメ。その眼差しは氷のように冷たく、底知れない殺意を湛えていた。


翔麻の頬がピクリと動く。


「……テメェ、やっぱり生きてやがったか。氷雨」


「無論だ。死ぬ理由も、終わる意味もない。むしろ楽しみだよ。あのときの“残り火”がどれほど成長したか」


氷雨は、わざとらしく顎に指を添え、思い出すように呟く。


「……確か、お前の仲間の名は“志朗”だったな。自分が盾になって、貴様だけを逃がした。あの死に様は美しかった」


「……ッ!」


翔麻の視界が赤く染まる。だがそれは怒りの炎――ただの感情ではない。

布が、熱に共鳴し始める。


(回想)


「翔麻、早く逃げろ!!」

凍える水中で、仲間を庇い前に出た志朗の姿。

青白い鱗に貫かれ、血が広がる。氷雨が無感情に一言、「弱い」と吐き捨てる。


倒れかけた志朗が、振り返る。

「生きて……強くなれ……翔麻……!」


──その言葉が、翔麻を今も燃やし続けている。


(現在)


翔麻が布を抜き放つ。両手に、炎を纏った“布刀”が浮かび上がる。


「……あの日の借り、いま返す。二度と仲間は失わねぇ。俺のこのほのおは、お前を燃やすためにあるんだよ、氷雨ッ!」


氷雨の口元がわずかに笑う。


「ふふ……それでこそ、生かした甲斐があるというものだ。“火渡 翔麻”。お前の炎が、私の氷を超えられるか――見せてみろ」


そして、蒼と紅がぶつかり合う。

灼熱と冷気が渦巻き、ステージを揺らす。


翔麻が斬る!「焔斬烈えんざんれつ!!」

炎の斬撃が、一直線に氷雨へ襲いかかる。だが――


「“水刃硬化”」


氷雨の全身が青鱗に覆われ、翔麻の斬撃を完全に無効化する。逆に、その水刃が翔麻の肩を浅く切り裂いた。


「まだだ……!」

翔麻は傷を無視し、もう一度布刀を構え直す。


「その火は、まだ小さい。志朗の言葉にすがるだけの“灯”では、私を溶かせはしない」


冷たい声が、また彼の記憶をえぐる。


翔麻の喉元から、怒りが、熱が、迸る。


「うるせぇえええええッ!!」


――戦いは激化していく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ