表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絣戦記   作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/48

第十七話「雷迅、降る」


 排水路の奥、泥と血が混じる悪臭の中で、柚葉は布を振るった。


 「“爆華双刃”!」


 炎が走る。だが、焼き切れない。そこにいるのは──“喰い破る者”、実験体・参号。


 異様な姿だった。壱号・弐号と違い、全身が骨のような外殻で覆われ、その隙間からは泥の肉が脈動している。顔の代わりに、大きく裂けた顎だけがあった。


 「っ、動きが速すぎる……!」


 柚葉の脇をすり抜け、仲間の一人が吹き飛ばされた。叫びも届かない。布での防御も意味をなさない。


 「くそっ、“鉄鎖縫い”!」


 別の織士が鎖布を伸ばすが、それすら一噛みで千切られた。


 「なんなの、この硬さ……!」


 柚葉が目を見開いた時には、すでに隊の半数が沈んでいた。布の反応も鈍く、炎すら濁る。


 (このままじゃ……全滅する)


 参号の顎が開く。そこから、ぬめった触手の束が襲いかかる──。


 ──その瞬間。


 「……遅かったか」


 空気が、変わった。雷鳴が、轟く。


 バチッ──という音と共に、雷が地を貫いた。


 参号の顎が、一瞬にして砕け散った。


 「なっ……」


 柚葉が振り向いた先。排水路の闇を裂いて立っていたのは、ひとりの男。


 布を手甲と足甲に変じ、蒼白い雷を纏った黒衣の男──


 S級織士、雷蔵だった。


 「全員、下がれ。ここからは俺の領分だ」


 声は低く、静か。だが、絶対の自信と力がそこにあった。


 参号が、怒りに満ちた咆哮を上げる。それに対し、雷蔵は微動だにしない。


 「“雷迅連襲”──」


 一言呟いた瞬間、雷蔵の姿が掻き消えた。


 次の刹那。


 雷の閃光が、空間に八重の斬撃を走らせた。


 視認できた者はいない。ただ、音だけが鳴り響いた。


 参号の体が、細かく断ち割られ、煙を上げて崩れ落ちる。


 「……終わりか」


 雷蔵が最後に繰り出したのは、一撃の正拳。


 「“雷鳴布断”!」


 拳に集約された雷が、地を裂き、参号の心核を粉砕した。


 ドウッと音を立て、泥の残骸が崩れ落ちる。


 ──戦闘、終了。


 その場の誰も、言葉を発せなかった。沈黙の中、ただ雷の残響だけが空気を震わせていた。


 柚葉が、震える声で言った。


 「あなたが……雷蔵、さん……?」


 雷蔵は、柚葉を一瞥し、ただ一言。


 「火の娘、か。……よく耐えた」


 それだけを言い残し、遠くを見つめている


     * * *


 その報せは、すぐに蛇目へ届いた。


 「……あの雷が動いたか」


 蛇目は、水面に映る残滓を見つめ、笑った。


 「いいだろう。ならば、こちらも“柱”をもう一人……」


 水底が揺れる。封印された“第二の影”が、静かに蠢き始めていた。


 “戦いの夜”は、さらに深く、次の段階へ──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ