剣士誕生
「なあ、周達以外に狩人以外で妖と闘ってる奴っているの?」一穂は興味をそそるように周に尋ねた。
「一穂、集中しろ。諦めるな。」周は少し厳しい口調で彼を戒めた。彼らは現在、初めての紙式神の付術の訓練をしているところだった。紙式神の付術とは、物体を霊力で操作する技術であり、今まさに目の前にある折り紙に自らの霊力を送って操作しようとするものだった。
だが、一穂は操作系の霊力コントロールが非常に苦手で、ティッシュペーパーを動かすことさえも一苦労だった。一方で、水式神の付術には優れた才能を持ち、物体の強化や自己強化においてはその能力を遺憾なく発揮していた。しかし、彼には大きな弱点があった。二つの付術を習得するためには自身の心の扉を開かなければならず、エンパス能力が雑音となって集中を妨げていたのだ。
やがて、折り紙が少し宙に浮いたかと思えば、すぐにくしゃりと丸まってしまった。周は肩を叩きながら、ため息をついた。「やれやれ」といった表情だった。
「おい、そんなにガッカリされるとこっちまで落ち込む……。」一穂は、エンパス能力で周の気持ちを瞬時に察知し、代弁した。そう言われた周は、正直なところ、一穂の操作系に期待するのをあきらめようかと考えてしまった。
周りの静寂の中、一穂は自分の限界に直面しながらも、なおさら強くなることを目指して努力を続ける決意を固めた。彼にとって、狩人としての道は甘くはない。だが、仲間と共に歩む道こそが、彼に勇気を与えてくれるのだ。
一穂はゆっくりと訓練に没頭していたが、周の言葉にふと耳を傾けた。「さっきの質問だけど、人間界にも妖退治をする人がいるんだ。生身の人間が妖と闘っているって、すごいよな。」
「え、生きている人間も妖と闘っているの?」一穂は驚きの声を上げた。「全然知らなかった。霊能力者とか、その類の人たちなの?」
周は腕を組み、やや考え込むようにしてから答えた。「うーん、霊能力者の中には実際に闘う人もいるけど、別の集団がいるんだ。俺が把握している限りでは、二大勢力が活動している。ほら、一穂の元彼女、桜ちゃんの弟もその一人だよ。」
「ええ?咲が?」一穂は目を大きく見開いた。「だからか……あいつ、たまに顔とか体に傷がついてるって言ってたから、不良やヤクザとの喧嘩だと思い込んでた。」
周は頷きながら続けた。「そうだよ。桜ちゃんが危険にさらされた理由がそれなんだ。ハンターの弟が妖に狙われて、姉が標的にされたんだろうな。」
人間界では、妖退治は「ハント」と呼ばれ、狩る者を「ハンター」と呼んでいる。彼らは日常の裏で静かに、しかし確実にその任務を果たしていた。
一穂は何かを思い出して、意を決した。「俺、決めた。剣で闘う。」彼の頭の中には、咲との剣術訓練の記憶が蘇っていた。彼らは時折、喧嘩の練習をするだけでなく、咲の家にあった古い剣術の書物を使って、流派の稽古にも励んでいた。その懐かしい光景が、希望の炎を一穂の胸に灯した。
新たな決意を胸に、ひとり剣術の訓練を始めようと心に決めたその時、周が声をかけた。「剣術だったら、喜一に頼むといい。喜一は元忍者で、剣術も一流だ。基礎訓練の指導もできると思うよ。」
一穂は嬉しそうに頷いた。「それはありがたい。俺たち、自己流だったから。」
周はにやりと笑って言った。「喜一に話しておくよ。きっと、弟子ができて喜ぶと思う。」
しかし、一穂の表情はすぐに曇った。「………喜一さんか、他の人を探そうかな……。」その言葉に、周は思わず笑みを挟んだ。心の中で、一穂が喜一に叱責される姿を想像していたからだ。