パートナーの条件は前衛
一穂は、軽くため息をつきながら周に言った。「俺はエンパスで、他人の感情が俺の意識に流れ込むんだ。だから、普段はその感情が入らないように気をつけているけど、それって影響するもの?」
周は、一穂の言葉を聞き終えるやいなや、目をキラキラと輝かせて彼を見つめた。「俺、エンパスの教え子は初めてかもしれない。多少、その系統の能力がある教え子はいたけれど。」
一穂は、周に手を離すように言った。それは彼の能力が、物理的な接触によってより敏感に感じられるからだった。
「一穂、嫌かもしれないが、その封鎖している感覚を開いてもらってもいいかな?」周は霊気を流し続けながら尋ねた。
「え?お前、話を聞いてたか?俺はエンパスなんだぞ!」
「ああ、だから?開けないのか?」
「開けてもいいが、お前の心を読んじゃってもいいのかよ?」一穂は周に警告を発した。彼は過去の経験から、人の心を読むことが良い結果をもたらさないことを知っていた。それゆえに、心の扉を閉じることにしていたのだ。
彼は、過去の苦い思い出を思い返しながら、内心でその時の感情を噛みしめた。これまでの出来事を思い出すたびに、彼の心には複雑な感情が渦巻いていた。
周はにっこりと微笑み、一穂に言った。「ああ、問題ないぞ。俺は単純だからな。一穂、心を安心して解放してくれ。」
一穂は渋々納得し、心の扉を少しずつ開いていった。「知らねーからな」と心の中で思いつつ、逆に全てを覗いてやるぞと脅した方がよかったかと後悔もした。
心の扉が開放されると同時に、周は一穂の霊気の流れに変化が起きたことを感じ取った。「どうだ?俺の心、ピュアでびっくりしただろ。」周の言葉に一穂は無言のままだった。しかし、確かに周の中には素直で温かい感情が流れ込んできており、彼が自分の体で流れている霊気を真剣に辿っているということも感じ取った。
一穂はそのまま自分の心の扉を全開にし、様子を見守った。すると、霊気が全身から放出される感覚に支配された。「そうだ、その調子。俺は一旦注入をやめるから、今度はお前がそのまま出してみろ。」周が言った。
一穂は指示に従い、見よう見まねで霊気を全身から放出するイメージを持った。そして、そのイメージの通りに霊気は彼の体から解き放たれていった。「もういい、一穂、やめてくれ。」周の声が響いた。
周は、一穂の霊気の放出が問題なく行えることを確認し、思わずほっと息をついた。「明日からは、再び実技基礎訓練を始めるぞ。一穂、君の霊力は元々強いから、応用も交えながら持久力を高めていこう。」彼は少し間を置いて、真剣な眼差しで一穂を見つめた。「それと、一穂、もし前衛として戦うつもりなら、しっかり戦い方を考えておけ。未来のパートナー、君の考えも大切だ。」
周は続けた。「前衛については喜一に相談するのがいいかもしれない。俺も力になれるし。性質上、俺は後方がやりやすいんだが、前衛だってできないわけじゃない。でもやっぱり後方支援がベストだと思う。喜一とのバディも、彼が前衛で俺が後方支援っていう形で組んでるからな。」
周は、一穂がこれからどのように成長していくのか、期待を込めて見守っている。それは、彼らの未来にかける希望の光でもあった。