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青い折鶴

周は時折、折り紙を用いた文通を楽しんでいた。それを何度か見かけた一穂は、気になって周に尋ねる。「この前は紙飛行機だったけど、書いてある内容によって変えてるの?」


周は霊力を吹き込んで、羽ばたこうとしている折鶴への手を一瞬止めた。「ああ、これは気分かな。ただの何となく。でも、急いで送りたい時は紙飛行機を選ぶことが多いかもしれない」と答えると、再び手を動かし、折鶴を冥界へと飛ばしていった。


「内容は何を書いてるの?」一穂は素直に質問を続けた。周は苦笑しながら言った。「今はまだ秘密だよ。」その言葉を聞いた一穂は、少しがっかりした様子で、周の手作りの国語の問題集のプリントに視線を戻した。



「はあー、終わった!」

一穂は周の補修プリントをやり終え、コーラをゴクゴクと飲み干した。勢いよく息を吐き出すその様子は、まるで酒を飲んだオヤジのようだ。周は、一穂が解いたプリントの出来栄えを確認し、納得したように頷いた。「やれば出来るじゃないか。本当に、気を抜くなよ。俺たちは妖にバレないように潜入しているんだ。注意しろよ。」


周の言葉には、少しの緊張感が漂っていた。このプリントは基礎から大学受験応用まで盛り込まれており、一穂が自力で調べ、考え、解答を導き出したことに、彼は感心を隠せなかった。周囲の人間も欺き、知識を身に付けていかなければならない彼らの状況は、決して楽なものではなかった。だが、こうして着実に成長していく一穂の姿を見ると、周の心も少しだけホッとしたのだった。



一穂と恭平は、放課後の校庭を後にし、近くのコンビニへと足を運んだ。オレンジ色の夕日が公園のベンチに影を落とし、二人は手に買ったお菓子を広げて、ゆっくりくつろいでいた。


「一穂、お前、2組の愛梨に狙われてるぞ。どうするんだ?」恭平は口元にニヤニヤとした笑みを浮かべ、仲間の噂をそのまま伝えた。愛梨は学園のマドンナと呼ばれ、すべての男子生徒の憧れの的であった。


一穂は少し考え込み、「愛梨…?ああ、あのギャルか。俺、タイプじゃないな。」と、思い切った返答をした。実は、彼はこの任務で潜入しているものの、愛梨に対する興味はまるでなかった。恭平は驚いて、「そうなの?じゃあ、一穂はどんな子がタイプなんだよ。俺、愛梨ちゃんが可愛くて好きなんだけど。」とさらに詰め寄った。


一穂の頭に浮かんだのは、今は会えない親友さくらの顔だった。「そうだな、明るくて素直で、一生懸命な子かな。」彼の声色はどこか懐かしさを帯びていた。


恭平は少し鼻を鳴らして、「顔はどうでもいいのかよ。」と突っ込む。


一穂は呆れた様子で、「お前、見かけと中身は違うんだよ。中身が大切なんだ。」と言いながら、肉まんを一口かじった。その温かさと味わいが、仲間との何気ない時間の大切さを感じさせた。公園の静けさの中、彼らの友情は深まっていく。



「恭平、俺、噂話を耳にしたんだけど、前の音楽の先生が急に居なくなったらしいな。」一穂は、今回の任務で謎の失踪者となった音楽教師について恭平から情報を引き出そうとした。しかし、いつもおちゃらけた態度の恭平が、急に真剣な表情を浮かべ、「知らない。俺は関係ない。」と意味深な言葉を口にした。その瞬間、一穂の心の扉が開き、恭平の心の中を読み取ろうとした。だが、そんな矢先に「橘恭平?」という可愛らしい声が響いた。


すると、小柄な女子高生が姿を現した。恭平はその女の子と親しげに話し始める。会話が一段落した後、恭平は一穂に彼女を紹介した。「こいつ、俺の中学の同級生のエミリ。」


エミリは、頬を染めながら一穂に自己紹介した。「田中エミリです。第一女子高校です。」一穂は心の扉を閉じ直した。邪魔が入り残念な気持ちではあったが、それを見せないように、彼女の友達を邪険にすることなく、にっこりと笑顔を浮かべた。「初めまして、工藤一穂です。」


エミリは、一穂の容姿に見惚れて明らかに動揺した。その様子を見て少し嫉妬した恭平が、「エミリ、こいつこう見えて単純だからな。」と言った。 一穂は驚いて恭平に言い返す。「おいっ、単純とは何だ!ま、事実だけど。」


その軽快なやり取りに、エミリはますます一穂に興味を持った。彼女の目には、一穂の魅力が新たな光を放っているように映った。三人の間に流れる微妙な距離感と、心の中のさまざまな思惑が見え隠れする中、彼らの物語は静かに動き出していた。

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