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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

噂の《恋が成就する神社》に、お参りに行ったカップル! 結末は!?

作者: 大濠泉

◆1


 ある夏の日の夜ーー。

 僕とさっちゃんは、喫茶店の窓際のテーブルで、向かい合って席に着いていた。

 僕の前には()れたてのコーヒー、さっちゃんの前には(いちご)シロップをかけたかき氷がある。

 僕の彼女ーーさっちゃんは、ちょっと腰を浮かせて、僕の頬に手を伸ばした。


「なに? ケイくん、また怪我(ケガ)したの?」


 僕の頬には傷があった。

 昨日まで絆創膏(ばんそうこう)()っていたが、もう傷跡も目立たないだろうと思って()がした。

 でも、さっちゃんには勘づかれてしまった。


「あぁ、猫にひっかかれてさ」


「みーちゃんだっけ? ケイくんち、猫がご主人様だもんね」


 さっちゃんはケラケラ笑う。

 喫茶店の中だというのに、相変わらず大きな声。

 まるで自分の部屋にでもいるかのように、彼女は奔放(ほんぽう)に振る舞う。


「で、今日は何なの?」


 さっちゃんはかき氷を脇に退()けて、テーブルにバンと地図を広げる。

 海岸線に接した地点に赤丸が記してあった。


「ここ、恋人同士がお参りすると必ず『恋が成就する』っていう噂のパワースポットなの!

 明日にでも行こうよ!」


「なに、それ?」


「北の方の神社なんだけど。狐の神様を(まつ)ってるっていう」


「キツネーーお稲荷(いなり)さんとか?」


「噂じゃ、コックリさん」


「やべぇんじゃねーの?」


「大丈夫だって! あ〜〜、怖いんだ?」


「ちがうよ。行く理由がないって言ってんの。

 僕たち、すでにリアルに恋仲じゃね?」


「そぉだけどぉ……」


 彼女ーーさっちゃんは、こういったオカルト話が大好きだ。

 僕は苦笑いを浮かべる。


「女の子って、こういう噂話、好きだよね。

 でも、とりあえず、かき氷を食べちゃおうか。

 溶けちゃうよ。

 僕のコーヒーも冷めちゃうし。

 まあ、どこへ行こうとさっちゃんの勝手だけど、出かけるのは明日からだ」


 僕の経験則が告げている。

 自分で(さそ)っておいて、いざ行くとなると「怖い」とか、女は言いだすんだ。

 そこを無理に連れていくのが、彼氏の役回りと決まっている。


 ところが、翌朝ーー。


 さっちゃんは「怖い」とか言わず、率先して自ら車を運転して、例のパワースポットへと突撃した。

 俺は助手席で欠伸(あくび)をするばかり。

 そうして約三時間で、僕たちは『恋が成就する』神社に辿(たど)り着いてしまった。


◆2


 僕は車から出ると、駐車場からさっちゃんと手を(つな)いで歩き、神社前に立つ。

 そして、鳥居(とりい)の向こうに続く石段と(ほこら)に目を()った。


「マジで、すげえところに建ってんな……」


 石段が伸びる先以外、両側面には、(あお)大海原(おおうなばら)が広がっていた。

 その神社は、海岸に突出した崖の上に、ちんまりと建っていたのだ。


「かなり怖くないか?」


「あはは。ケイくん、怖がりィ。

 この神社、怖いところにあるから、霊験あらたかなんじゃないの?」


「でもこれーーいかにも、なんか(いわ)くある神社って気がするけど?」


「別に、知らないわ」


 そんな会話を交わしながら、息を切らせて石段を昇った。

 百段以上はあったと思う。

 祠の前まで辿り着くと、賽銭(さいせん)を投げて柏手(かしわで)を打って、祈りを捧げる。


 僕の横で、さっちゃんが大声を出す。


「願いが叶いますように!」


 彼女は(ひも)を引っ張って、ガランガランと鈴を鳴らす。

 僕は顔を上げ、改めて正面にある(ほこら)を見詰める。

 思ったよりずっと大きい。

 人が五、六人は中に入り込めそうな大きさがあった。


「中に入るんだよ」


 さっちゃんはためらうことなく祠の扉を開けて、身を(かが)める。

 僕は彼女の後についていった。


◆3


 (ほこら)の入口が、妙に(せま)かった。

 僕も(かが)んで入って神前に出ると、なんとか胡座(あぐら)をかいて座った。


 神前ーー正面に目を向けると、天井近くには神棚があって、その下には大きな掛け軸が飾られていた。

 ところが、掛け軸には、文字が一字も書かれていない。

 もちろん絵も描かれていない。

 真っ白な掛け軸がかかっているだけだった。


 突然、その掛け軸に映像が映し出される。

 まるで映写機の映像を、スクリーンに映しているかのように。


 僕は慌てて立ち上がり、周囲を見渡す。

 映写機の存在を探したけど、どこにもない。

 文字通り、虚空から光が照らされ、映像が浮かび上がっているようだった。


 僕は白い掛け軸に向かって座り直し、改めて映像に目を向けた。


「わあ、なにこれ? すごい! ケイくんも見えてる?」


「あぁ……」


 車の中の映像が映し出されていた。

 若い男が運転席、若い女が助手席ーー。


「みーちゃんて、あれ?」


 と、さっちゃんが映像に向かって指をさす。


「……」


 僕は絶句する。


 僕の目の前に、みーちゃんーー元カノの姿が映っていた。

 助手席に座っているのは、みーちゃん。

 そして、運転席に座っているのは僕だった。

 僕の車の中、一週間前の映像が映し出されていたのだ。


 映像の中で、みーちゃんは涙ながらに僕に訴えかけていた。


「なんで別れるの? 一緒になるんじゃなかったの? 妊娠したんだよ、私!」


「重いんだよ、そういうの。社会人になって、まだ二年目だよ?

 それに、誰の子かわかんない」


「ひどい!」


「ごめん、ごめん。わかったからさ。(おろ)してくれよ」


「やだ。シンママになってもいい。この子を産んでやるわ。

 ケイくんと、私の愛の結晶ーー」


 バシン!


 僕は思わず手を出した。

 みーちゃんの頬を叩いた。


「叩くなんて!」


 キイイイ!


 みーちゃんは甲高い声を発して、僕に反撃する。

 両手をがむしゃらに振り回して、ネイルでデコった爪で僕を引っ掻く。

 僕は抱きついて、彼女を落ち着かせようとした。

 だけど、みーちゃんは車のドアを開け、僕の腕から離れた。

 そのまま車道に飛び出す。


「危ない! 知らねーぞ」


 僕の警告を無視して、みーちゃんは道路を歩いて離れていく。

 山奥に伸びる道で、この先に行ったところで、街まではかなり遠い。

 明らかに、僕が追いかけてくるのを誘っているように思えた。


(ふん! ここで追いかけたら、アイツの思う壺だ……)


 僕は不貞腐(ふてくさ)れて、ふんぞりかえる。

 すると、大きなトラックが、僕の車の横を通り過ぎていく。

 この狭い山道に、あんなデカいトラックが走ってるんだと思うと、急に心配になった。

 とりあえず、彼女をあのまま、車道を歩かせるわけにいかない。


 エンジンをふかし、ゆっくりと先へ進む。

 根負けだ。

 仕方ない、車には乗せてやろう。

 激情に駆られて外に出た彼女も、少しは頭を冷やしているだろう。

 そんなことを考えながら、ハンドルを握り、曲がりくねった道の先を行く。


 すると、少し前に通り過ぎたトラックが停まっていた。

 トラックの運ちゃんが運転席から外に出て、青ざめた表情でスマホを握り締め、連絡を取っている。


「きゅ、救急車、救急車をーー!」


 トラックのライトに照らされた道路を見ると、みーちゃんが倒れていた。

 うつ伏せになって、血が出てる様子がわかった。

 腕や足があらぬ方向に曲がっていて、首からは鮮血のみならず、骨までが(のぞ)いていた。


 僕はそのまま車を止めることなく、静かに横を通り過ぎていった。

 どうやらトラックの運転手は、彼女が僕の車から出てきたとわかっていないようだった。

 田舎だったから、監視カメラがないのが幸いだったーー。


◆4


 そんなふうに、一週間前のことを思い出しつつ映像を観ていると、目の前の画面では、みーちゃんが僕の方を睨みつけていた。

 どうやら、この映像は過去を映すだけではないらしい。

 死んだ彼女が、じかに生者の僕にコンタクトを取れる仕組みになっていたようだ。


『ひどいよね、ケイくん。あんた、最低だよ。

 私だけじゃなく、二人の愛の結晶まで殺して』


 そして、今の彼女であるさっちゃんのほうに顔を振り向け、みーちゃんは語りかける。


『さっきの場面、見たでしょう? こいつの引っ掻き傷、私がやったんだから』


 その声を受け、さっちゃんが僕の顔を見る。

 僕は慌てて両手を振って叫んだ。


「嘘だよ、こんなの。でっちあげた!

 そうだ。コックリさんの呪いってやつだ。

 それか、狐にばかされてんだ!」


 僕は立ち上がり、ズカズカと奥に上がり込んで、白い掛け軸を引っ張って落とす。

 掛け軸と一緒に、その上に飾られていた神棚も落下してぶっ壊れた。

 僕はそれらを足で踏み付けにして、神棚の屋根を(つぶ)し、掛け軸を破る。


 ところが、掛け軸を外しても、その後ろの壁までが白かった。

 そこには、相変わらずこちらを睨みつけるみーちゃんの顔が映し出されていた。

 振り返ると、さっちゃんまでが僕を睨みつけていた。


(なんだよ、そんな目で見るな、ちくしょう。なんだってんだ!)


 僕は外に出ようとして振り向き、入るときに使った扉を開けようとした。

 だけど、扉はビクともしない。

 外から(かんぬき)がかけられてるとみえて、ガタガタと音を立てるだけで、開けることができない。


「ちくしょう!」


 引き返して、大映しになったみーちゃんの映像を横目に、奥にも扉があったので、そこから外に出る。


 するとーー。


「わあああ!」


 僕は足の踏み場を失い、落下した。

 扉の外には地面がなかった。

 僕は崖から落ちてしまったのだ。


◆5


 さっちゃんは、目を丸くして立ち上がり、ケイくんが落ちた先を見ていた。


(奥の扉の向こうが、いきなり崖になってるだなんて、知らなかった。

 でも、これでケイくんと別れることができたわ……)


 この崖上の神社が『恋の成就スポット』いうのは、じつは嘘だ。

 別れたい相手と共に来ると、縁を切ることができる『呪いの神社』として有名だった。

 近くには、その地域切っての自殺の名所と言われる断崖絶壁が続く海岸線があった。


(それにしてもーー)


 さっちゃんは首を(かし)げる。


(どうしてケイくんは、あれほど取り乱してたんだろ??)


 彼女が見た映像は、ケイくんが猫と(たわむ)れている場面だった。


「あんなふうにみーちゃんと遊んでるんだなぁ」と思ったけどーーたしかに、猫がケイくんを引っ掻いていたけどーー特に問題になるような場面はなかった……。


 さっちゃんは入口の扉を開いて(ほこら)から出ると、青空を見上げ、大きく伸びをした。


(まぁ、いいわ。別れられたんだから。

 ケイくんは神経質で『俺様キャラ』だったから、ヘタな別れ方をするとストーカーにでもなるんじゃないか、って心配してた。

 けれど、ラッキー。

 これで新たな恋を始められるわ。

 さすがは『呪いの神社』。

 また縁を切りたい(ヤツ)が出来たら、ここに来よっと!)


 さっちゃんは駐車場にまで戻って、車のエンジンを吹かす。

 その頃には、次のカップルが手を取り合って神社の方へと歩いていた。


 最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

 気に入っていただけましたなら、ブクマや、いいね!、☆☆☆☆☆の評価をお願いいたします。

 今後の創作活動の励みになります。


 さらに、以下の作品を連載投稿しておりますので、ホラー作品ではありませんが、こちらもどうぞよろしくお願いいたします!

【連載版】

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