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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ
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5話 夜会(1)

マルとバークが手合わせをしてから、数日後ケイトは侯爵邸に、帝都の仕立て屋を呼んだ。


ケイトにキティも加わって、マルに片っぱしから試着をさせ、生地をあてて色を選び、正装用の服を4着作らせた。


***

初めての夜会の夜、マルは白に近いグレーの燕尾服を着た。

鏡に映ったら自分を見て、不思議な気持ちだった。小さい頃の兄に似ている気もした。


ケイトは、騎士の正装ではなく、ブルーのドレスだった。胸元からのデザインのドレスで、装飾はほとんどなく軽い質感で、ウエストから大きく広がっている。

髪はサイドだけアップにしていて、イヤリングは小ぶりのものにした。


マルはケイトの首から肩、腕までのラインが美しいと思った。剣を振るためのしなやかな筋肉がついていて、うっとりする。


「可愛いらしいデザインのドレスを着られたりもするんですね。」

マルがそう言うとケイトはにっこりした。


ああ、ケイト様がかわいい、とマルは思った。

ドレスと髪型のせいかな、かわいい。


「ありがとう。マルはきっと可愛い王子みたいになるだろうと思って、合わせてみた。」


きゅんとして死にそうだ。


行きの馬車でも、いつもと雰囲気の違うケイトにマルはずっとドキドキした。



会場に着き、馬車から降りた所で、ケイトとマルはクラウディオに出会った。


クラウディオはケイトを見てびっくりして言った。

「どこのご令嬢かと思ったよ。今日はとても可愛らしいな。」


「いつもの感じの装いでマルにエスコートしてもらえば、意地悪な女主人みたいになるだろう?」


ケイトの言葉にクラウディオは笑った。

「はは、確かに、こちらも可愛く仕上がっているものね。」

そう言ってクラウディオはマルを見た。


銀色の髪の下の優しげな青い瞳がマルを見つめる。

ケイトにも負けないきらきらした微笑み。


だめだぁ、ドキドキが止まらない、とマルは思った。

ドレスアップしたケイト単品でも、興奮してしまうのに、横に正装したクラウディオまで居て、倒れてしまうんじゃないかと思う。


2人がこうして並んでいると、本当にお似合いだ。

今日はケイトが可憐だから余計に素敵で、これは噂になるわけだ、とマルは納得した。


「ラウ、ちゃんと紹介してなかったな、マルだ。」

「こんばんは。君の話はケイトからよく聞いているよ。今日は楽しんでね。」

「はい。ありがとうございます。」


マルは、ケイトがクラウディオのことを愛称で呼ぶのにときめいたし、ケイトが自分のことをクラウディオによく話していることがすごく嬉しかった。


「マル、ダンスが始まる前の歓談中にひと通り紹介して回るからもう行こう。ラウ、後で。」

マルはケイトをエスコートして会場に入り、ケイトは出会った人々に、レイピアにしたようにマルを紹介して回った。



だいたいの挨拶を済ませ、ダンスの曲が始まりそうになったので、ケイトはマルを連れて、壁際のクラウディオの所へ行った。


「お帰り、お疲れ様。」

「ああ、これで変な噂は消えると思う。」

「消えるだろう、何より君の愛しい公子は姿勢も所作も美しい。名のある貴族だと皆が思うよ。」

「君がそう言うなら心強いな。」


「ファーストダンスは、彼と踊るのか?」

ダンスの曲が始まり、クラウディオはケイトに聞いた。


「いや、マルはダンスが全然なんだ。」

「では。」

クラウディオは優雅に身をかがめて、手を差し出し、ダンスを申し込んだ。


「貴方の一曲目のお相手をさせていただけませんか?レディ。」


その様子は、まるで童話の中の絵のようだとマルは思った。


ああ、私がドキドキしてどうする。

ケイト様はもちろん、受けるんだよね。

ちらりとケイトを見る。


ケイトは全然ときめいてはいないようだった。

しょうがないな、というような表情で、マルに聞いてきた。

「マル、一人で大丈夫か?」


「大丈夫です。気にしないでください。私はお二人のダンスが見たいです。」

マルは力強くうなずきながらそう言った。


「なら、喜んで相手をしよう。」

ケイトはクラウディオの手を取り、2人は優雅に前へ出ていった。


クラウディオの今夜の服は紺色で、ケイトのブルーのドレスと合わせたような組み合わせだった。


そして、ケイトのドレスの色は、クラウディオの瞳の色で、マルでもその意味を知っていた。


ほうっ、とため息が出てしまう。

ダンスの息もぴったりだし、躍りながら楽しげに談笑しているのが分かる。



「こんばんは、どこかの公子様。うらやましいのかな?」

マルがケイトとクラウディオに見とれていると、横からそう声をかけられた。


見ると、ランドルフだった。

「こんばんは、ビット伯爵。私のことは、マルで結構です。」


「では、マル。飲むかい?」

ランドルフはグラスを1つマルに差し出した。


「あ、いえ。お酒は飲めないんです。」

「大丈夫、私もなんだ、リンゴジュースだよ。」

ランドルフはそう言ってウィンクした。

前に王宮の庭で会った時と雰囲気が違った。


今日は敵意はないみたいだ。とマルは思った。

こういう風に優しいと、素敵なおじさんだな。


マルはグラスをもらって飲んだ。

炭酸入りのジュースだ。


「ケイト様とクラウディオ団長は恋仲なのですか?」

マルはランドルフに聞いてみた。

「さあ、そういう噂は聞くね。」

「でも、恋人の瞳の色のドレスを着るんですよね?」

「はは、侯爵はそういうロマンチックなものを好む方ではないだろう。青は元々お好きだよ。」

「そういえば、確かにそうですね。」


「君は侯爵が好きなのかい?」

「はい、お慕いしています。」

「素直だなあ。」

「隠す理由がありません。」

「若いといいね。」

マルはきょとんとして、ランドルフを見た。

「ビット伯爵もお若いですよ。私の父より若そうです。」


ランドルフは吹き出して笑いながら聞いた。

「君のお父上は何歳?」

「確か、43才だったかと思います。」


「ふふ、確かに私の方が若いな。」

「ええ、それにビット伯爵は、騎士団の方とは違う、落ち着いた雰囲気があります。」


「君は、口説くのが上手だな。私のことはランドルフでいいよ。」

「分かりました。ランドルフさん。」


ケイトとクラウディオが帰ってくるまで、マルはランドルフと意外に楽しく話した。



「ビット伯爵、私の侍従を口説かないでほしいな。」

ケイトがそう言った。


「いやいや、口説かれていたのはこちらだよ。ところで、今宵は美しいレディ、二曲目の相手をする光栄を私にくれないか?」


ランドルフからの誘いに、ケイトは一瞬あっけに取られたが、すぐに笑みを浮かべてこう言った。

「貴方からダンスの誘いを受けるとは、驚きだ。それにしてもとげのある言い方だな。」


「普段の貴方は凛々しい騎士だろう?レディの貴方と出会える機会は少ないからね。このチャンスを逃したくないな。」


「ふむ。そこまで言ってもらって断るわけにはいかないな。ラウ、マルを頼む。」


「お気をつけて、今宵は美しいレディ。」

クラウディオはくすくす笑いながらそう言った。


マルは、ケイトの恋人かもしれないクラウディオと2人で残され、少し緊張した。


失礼のないようにしないと。

はっ、まさかクラウディオ団長は、ケイト様が私に溺れてるなんて噂、気にしてたりしないよね?


そっとクラウディオを見上げると、クラウディオはにっこりした。


「君とゆっくり話すのは初めてだね。ケイトからはよく聞いてたんだけど。マルでいいのかな?」

優しい口調だった。


「はい。マルとお呼びください。」

クラウディオは噂を気にしている様子は全くない。

マルは緊張がとけてきた。


「ケイト様は、夜会でいつもモテるんでしょうね。」


「憧れている騎士や令嬢は多いからね。ビット伯爵は、何か別の魂胆がありそうだけど。ケイトが騎士の正装の時はレディ達の熱気がすごいよ。」


「クラウディオ団長も人気だと、さっきランドルフさんが言ってました。」


「僕は、爵位と見た目で近衛騎士団に入ったからね。人気がないと困るよ。」

「えっ、そんな意味では言ってませんよ。」

マルは慌てた。


「分かってるよ。ふふ、確かにこれは可愛いな。」


「私で遊んでますか?」

「ごめん。でも、近衛騎士団が爵位と見た目を重視するのは本当だし、僕が団長なのもそういう尺度からなのは本当。第二団と第三団は、第一団ほど訓練も厳しくないし、雰囲気もぐっと華やかになるよ。」


「うーん、そう言われると、第一団で華やかさで目を引くのは、ケイト様とレイピア卿くらいですものね。」


「言うなあ。」


「でも、貴族は小さい頃から剣をたしなむ方が多いから、爵位重視であれば、ある程度の実力揃いだと思います。練兵場で第二団の方をお見かけした時、みなさん型がきれいでした。」


マルがそう言うとクラウディオは優しく微笑んだ。

「マルは賢くて、いい子だね。これは、ビット伯爵も口説かれてしまうな。」



ケイトとランドルフが戻ってきて、4人で話していると、婦人が1人、マルに話しかけてきた。


「こんばんは、小さな従者さん。」

「こんばんは。マダム。」


「きれいなお顔ですね、貴方、ダンスはできますの?踊りませんか?」

「すいません、マダム。私はダンスは不得意なんです。」


「あらあら、貴族の令息がダンスをたしなんでないはずありませんわ。恥ずかしいがらずに、踊りましょうよ。」


さっと手を出されてしまう。

マルは困ってしまった。

ダンスは全然下手なうえに、男性パートなんて踊ったこともないのだ。

どうしよう、でも、断ったらすごく失礼だよね。名のあるご婦人だったらあとでいろいろ言われるし。


おろおろしていると、マルはケイトがクラウディオに目配せしたのに気づいた。


「マダム、その美しい手をとって貴方と踊る栄誉に私が預かっても良いですか?」


クラウディオがにっこりしてそう言った。


「まあ、クラウディオ卿が?もちろん、嬉しいですわ。」

婦人はマルから離れて、クラウディオに手を取らせ、さっさとダンスに向かっていった。


「はあ、びっくりしました。」

「あの方は、ドーン男爵夫人。ちょっと変わった方なんだ。片っぱしからダンスに誘うんだよ。次からは断って大丈夫だよ。」

ケイトが教えてくれる。


「そうなんですね、クラウディオ団長に悪いことをしました。」


その後、クラウディオはそのままレディ達に囲まれてしまい、5曲ほど踊ってからやっと帰ってきた。


「はあ、ケイト、この後は僕の側にずっと居てくれ。」

疲れきった様子でクラウディオはそう言った。


人生で初の夜会の帰りの馬車で、マルはダンスの練習をしようと誓った。


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