42話 ウィルス伯爵の後継者(3)
ケイトがターゼンに立った翌日、今度はレイピアがソアラを連れて、帝都のターゼン邸を訪れた。
クラウディオは仕事に出ていたので、マルが対応する。
「レイピア卿、バタバタしていると聞いてます。大丈夫ですか?」
「すみません。ケイト団長より聞いています。マルとクラウディオ卿にいろいろ迷惑をかけているようですね。」
明らかにやつれた様子のレイピアがそう言った。
「いいえ、何でもないことです。他にもお力になれる事があれば、何でもお申し付けください。」
マルはレイピアの様子に胸が痛んだ。
ソアラもずっと元気がない。
「実は、最近、いよいよ債権者の催促がすごくて、ソアラがこれ以上うちにいるのは危険なんです。」
「うちで大丈夫です。」
マルはレイピアの提案を待たずにそう言った。
「はい、えっ?」
「うちでソアラを預かります。全然気にしないでください。レイピア卿は?大丈夫なんですか?」
「話が早いですね。」
レイピアは少し笑って、続けた。
「ありがとうございます。助かります。私なら、ちょっと眠れてないくらいで大丈夫です。兄が帰ってくれば落ち着きますし、、、。」
レイピアはソアラに連絡する時のこと等を説明すると、
「屋敷を空けると、すぐ債権者が来て、使用人達が怯えてしまうんです。バークが頑張ってくれてるんですが、バークでは喧嘩になってしまうこともあって困ってます。」
そう言って、すぐにウィルス邸へと戻っていった。
「お父上のこと、お悔やみ申し上げます。」
マルは葬儀では会えなかったソアラにまずそう言った。
「それは大丈夫。母も姉さんもいるし。」
ソアラは小さくそう返した。
全然、元気がない。
「マル、いろいろごめんね。」
しばらく黙ってからソアラはそう言った。
「何言ってるの。私はソアラがうちに来てくれて嬉しいよ。」
「それもだけど、兄のことで、ターゼンに厄介になってたみたいだし、、、。」
「厄介じゃないよ、レイモンド卿は私の剣の師匠でお世話になったし、ターゼンではあの時、レイモンド卿が残ってくれてすごい助かったの。こちらこそ、申し訳ないと思う。」
「ううん、女性にうつつをぬかしただけよ。」
ソアラは冷たく言った。
「あ、いや、うーん、でもあの女性に敵う人はいないっていうくらいの人よ。」
「何それ。」
ソアラの調子がちょっと戻った。
「レイモンドの奥さん。なびかない人はいないと思う。」
「ふん。関係ないわ。そもそも爵位に興味もなかったって、姉さんも言ってた。」
「あー、そんな感じはするね。」
「そうよ、気が弱くて声も小さいのよ。」
「うーん。そうだね。」
「食べるのも遅いし、忘れ物も多かったわ。」
「へー、そうなんだね。」
「緊張すると、どもってたし。」
「ふむふむ。」
「犬とかには絶対吠えられるのよ。」
「ふふふ、よく覚えてるのね。」
「悪い人ではなかったからよ。」
「もうすぐ会えるよ。」
「別に会わなくてもいいわよ。大体、帰ってくるか分からないわよ。」
「うーん、レイモンド卿なら帰ってくると思う。」
リルベアはどうするかな?とマルは思った。
そういう事を気にするタイプではないが、さすがにこの状況ではソアラとレイピアの前に顔は出しにくいのではないか、と思う。
レイモンドと一緒には、来ないだろうな。
午後のお茶の時間には、いつも通りとはいかないが、ソアラの様子も大分普通になってきて、マルは安心した。
その4日後、ケイトがレイモンドを連れて帝都へ帰って来た。
***
レイモンドは帝都に来てまず、ウィルス邸へ行き、レイピアと会ってから、マルの屋敷にもやって来た。
「こんにちは、ウィルス伯爵。」
「、、、、マル。怒ってるの?」
他人行儀に挨拶をするマルにレイモンドは聞いた。
「別に、怒ってません。」
「ちょっと、拗ねてるというか、貴方を前にしてどうしたらいいか分からないだけのようです。お久しぶりですね、レイモンド卿。ウィルス伯爵とお呼びした方がいいですか?」
クラウディオはにこやかに挨拶した。
「まだ、後継者の手続きも終わってませんし、そもそも仮の後継者なので、レイモンドで大丈夫です。マルも、ね?」
「ふん、分かりました。」
マルはきちんとレイモンドを見た。
貴族らしく正装している剣の師を初めて見る。
「リルは?」
「さすがに、レイピアとソアラとこんなバタバタしてる時に会うのは気まずいからまた後でって。」
レイモンドはマルがよく知っている困ったような笑顔でそう言った。
マルは何だかちょっとほっとする。
「機嫌は戻ったかな?マルがそんなだと、ソアラ嬢もますます気まずいからね。」
クラウディオがそう言い、3人は大分後ろで、じっとりとこちらを見ているソアラを振り返った。
「久しぶりね、レイモンド兄さん。」
3人に振り返られて、ソアラはそう言ったが、遠くて聞こえない。
「え?聞こえないよ!ソアラ。」
レイモンドが声を大きくして聞き返す。
「久しぶりね!」
レイモンドはゆっくりソアラに近づいた。
「久しぶりだね。すっかりレディになったね。」
「まあね。レイピアはなんて?」
「遅かったですね、って言われたよ。」
ソアラには、再会しての開口一番でそのように言う姉が容易に想像できた。
「こっちにはどれくらい居るの?」
「爵位継承の手続きがあるのと、爵位継承後はレイピアを後継者に指名しておく必要はあるから数ヶ月は居るよ。」
「あら、結構ずっと居るのね。」
「安心した?」
「貴方がいれば、レイピアがゆっくりできるからよ。」
「僕が居なかったばかりに、すまない。大変だったね。」
レイモンドはそっとソアラの肩に手をかけた。
「ふん。私はこのまま家に帰るのかしら?」
「いや、まだウィルス邸はバタバタしてるから、もう少しマルとクラウディオ卿にソアラをお願いしようと思ってるよ。」
「分かったわ。」
「また、迎えに来るよ。」
「馬車だけ、寄越してくれたらいいわよ。」
「迎えに来るからね。」
レイモンドは困ったような笑顔でそう言い張った。
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