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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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35話 結婚後 (1)

結婚して2ヶ月が経ったある日の朝、マルは1人で、悶々と朝食をとっていた。


新しい屋敷にも慣れ、レディ達からのお茶の誘いも落ち着いてきた。


こちらに興味を持っている人達からの誘いは一通りこなしたので、これからは特に誰と親しくなるかを考え、マルからの招待についても計画していかなくてはいけない。


その人選について考えていた。


うーむ。


一人で考えても結論は出なさそうだ。


ほとんどのレディ達とは初対面だったので、一度お茶をしただけでは選びようがなかった。


ラウに聞いてみて、ソアラとヒューゴにも今度相談してみよう。そう思った。



ソアラとヒューゴとはデビュタント以降、急速に仲良くなっている。


ソアラは、デビュタントの2日後にはマルを単独で屋敷に招待してくれた。

マルと仲良くなることを決めている押しの強さに最初は戸惑ったがすぐに打ち解け、そこにヒューゴが合流したのも、あっという間だった。


目前の夏の休暇では、ターゼン領に遊びに来てくれることにもなっていた。

2人はアカデミーのチェス倶楽部に所属していたらしいので、マルは対戦相手ができて兄のイアンも喜ぶだろう、と思っていた。


マルはとりあえず、お茶の招待の人選は、おいておくことにした。



そして今朝はもうひとつ、マルはクラウディオの事でも悩んでいた。


結局、マルもクラウディオの事が好きだということは伝えられずのままで、しかも、結婚後、マルがヒューゴと仲良くなったことや、時々ランドルフを訪ねていることが気に入らないらしく、最近機嫌が悪い。


機嫌が悪いから、気持ちもますます伝えにくい、の悪循環に陥っていた。



ラウの機嫌が悪いの、自分の中で溜め込むからややこしいんだよなあ、、、。


昨夜だってそうだ、とマルは思った。

マルは寝室で、うっかりランドルフとのさらし事件を話してしまい、クラウディオは意地悪だった。


意地悪をしたくてするのはいいけど、したくないのにしてしまうのは良くないのでは、と思う。


実際、今朝のクラウディオは完全に落ち込んでいて、今日はローレンス邸による用事があってそのままそちらに泊まるから、マルはゆっくり休んで、と出掛けていった。



このままでは、いけない。


何とかして、クラウディオに自分の気持ちを伝えなくては。


うーむ。


どうしようかな。


今日、ランドルフさんと約束してるし、ついでに聞いてみようかな。


マルはそんな事を考えながら、朝食を食べた。




***

その日の午後は、マルはブランシュ邸へと向かった。



「ケイトは騎士団の仕事で、私だけなのだが良かったかな?」


執務室でマルを迎えて、ランドルフが言った。

窓際の机に簡単にお茶の用意がしてあり、2人はそこへ座った。


「良かったです。ケイト様に相談するのは申し訳ないと思っていたので。」


「マルの中での私の扱いがひどくないか?」


「ふふ。冗談です。相談が2つあって、1つは元々ランドルフさんに相談したい事だったんです。」


「それで、何だい?」


「木樹香についてなんですけど。知ってますか?」


「、、、ふむ。知っているよ。ターゼンの精霊の森の産出品だな。うちの商会で取り扱いたいと考えたこともある。」


「そうなんですか?」


「ああ、でも断念した。」


「なぜですか?」


「主な用途が、媚薬の原料だろう。精製に手間がかかるから、どうしても粗悪な非合法のものに使われることが多い、取引先がいかがわしい組織になるから止めたんだ。」


「合法的なものを製造して帝都で販売できないかな、と思ってるんです。」


ランドルフは少し考えてから言った。


「合法的な木樹香の薬はとても高価だ。最近は安値なものもあるから売るのは難しいと思う。」


「いえ、媚薬はあくまでも飾りにします。ターゼンでは、そもそも木樹香はお香や、香油として使うんです。媚薬としての効果はありませんが、香りも少しエキゾチックなので、精霊のイメージも使って売り込みを上手くやればいけるかなあ、と。」


「ふむ。」


「製造と販売は侯爵家主導でやって、ブランドを確立できれば、と思っています。」


「主導でやるのはいいが、貴族達は貴族が商売をすることを嫌うから、表向きは家紋を貸すくらいの体が良いと思う。」


「いけると思います?」


「高級媚薬と精霊のイメージを使って、手の出しやすい香を売るのは悪くないと思うが、まずは製造について、何とかしてからでないと何とも言えないな。」


「それならほぼクリアしています。」


「話が早いな。」


「元々、兄と父の計画なんです。主に兄の。」


「なるほどなあ。」


「まずは、懇意になった方に紹介して、反応が良ければ店を出そうと考えているんですが、合ってますか? 」


「良いと思う。高級路線で行くならメインストリートに内装に気を使って店を出しなさい。うちの商会でやるかい?」


「ノウハウだけいただければ、と思っています。」


「お、強欲だな。」


「ふふ、もし可能なら商会で働かせてもらいたいな、と思っています。働く時間は限られてるだろうしお給金はいりません。」


「うーん、、、、。」


「ダメでしょうか?」


「商会で君を雇うわけにはいかないなあ、、。この提案、クラウディオ卿は知っているのか?」


「まだ話していません。木樹香の計画については知っています。」


「うーん。そもそも、貴族が商売に直に関わるのは体裁が悪い上に、雇われて働くなんてもっての他だ、ということは理解しているかな?」


「はい。」


「そして、私ですら、商会の男達の中に君を入れたくないと思うんだから、クラウディオ卿が承諾する訳がないと思う。」


「ですね、、、。」

マルはしょんぼりした。


「ところで、君のお父上と兄上はなぜ金を稼ぎたいんだ?」


「それは、ターゼンの収入源は木材で、頭打ちだからです。なので元々、新しい収入源は父と兄が目指していたところです。私の結婚によって、帝都での拠点ができたので時機がきたのかな、と。」


「ふむ。」


「父は、私が事業に関わることまでは考えていません。でも、私も役に立ちたいんです。兄には相談済みです。」



ランドルフはしばらく黙って、ふうっとため息をついてから口を開いた。


「私の娘は、商家に嫁いでいるんだが。」


「はい。」

マルは少し期待のできそうなランドルフの言葉に、顔が明るくなった。


「嫁ぎ先の関係の、主に茶葉を扱う店を貴婦人の趣味の体裁で経営している。」


「はい。」


「珈琲の取り扱いや、珍しい香辛料も少し置いていて、客層は主に貴族達なんだが。」


マルは今や、期待に顔を輝かせていた。


「そこで、茶葉や珈琲に興味があるから学びたいという建前で、」


「やります!」


「返事が早いな。」


「ばっちりの境遇じゃないですか!ランドルフさん、すごい。」


「娘に聞いてみないと実際にできるかは分からないよ。そしてだな、その前にクラウディオ卿の承諾はきちんと取りなさい。」


「分かりました。がんばります。ありがとうございます。」

マルはにっこりして、ランドルフに感謝した。





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