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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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32話 マルグリット嬢の結婚 (1)

デビュタントから日が経ち、結婚と新居の準備の合間をぬって、マルはクラウディオと観劇に一度行き、夜会にも一度2人で参加した。


あんな愛の告白もあったし、マルはいろいろ緊張しながら出掛けたのだが、クラウディオは拍子抜けするくらい前と変わらなかった。


何なら、侍従の時の方がもう少し馴れ馴れしかったくらいで、デビュタントの夜に腰に寄りかかって、指を食んだのがウソみたいに、クラウディオはマルとの距離をきちんと取った。


エスコートで手に触れる以外は、マルの髪の毛1本にも触れない。





うーん、これは、、、。


「ラウ、もしかして私に気を使ってませんか?」


夜会からの帰りの馬車で、マルは向かいに座っているクラウディオにそう聞いた。


「え?」


「自意識過剰かもしれませんが、好きだと言ってくれてから、私との距離をものすごく適正に取ろうとしてませんか?」


クラウディオは顔を赤くした。


「あー、うん。それは、もちろんそうすべきだし。」


「あんまり、よそよそしいのは、私も気を使ってしまいます。」

「うーん。」


「婚約者同士って、もう少し距離が近いのでは?」

「まあ。最近は恋愛結婚も多いからね。」


「こういう馬車内では隣に座ったりしないんですか?」


「婚約者なら?」

「婚約者なら。」


「肩を抱いて、キスをしてしまうよ。」

「それは拒みません。」


マルの返答にクラウディオはため息をついた。


「嫌だよ、ただ婚約者の責務を全うしようとしてるマルとそんなことしても意味がない。」


クラウディオは弱々しくそう言った。


「すいません、拒みません、は間違いです。うーん、、、嫌ではないです?」


「はあー、はは、ちょっと気が抜けるなあ。」


クラウディオはすっとマルの隣に座った。

マルに近い方の手が首の後ろを通り、肩に回される。

わっ、とマルが思っていると、クラウディオのもう片方の手が顔をそっと包んでから顎に添えられ、くいっと持ち上げられた。

クラウディオの青い目が、近い。その青はいつもより強い光を帯びてマルを見ている。


うわあっっ。

今度はマルが真っ赤になった。


「マル、顔が赤いよ。」

唇が触れそうな位置でクラウディオがささやく。吐息が直接唇にかかる。


「慣れてないんです。」

「そう?」

「こういう時は目を瞑るんだよ。」

「えっ?目?」


今?瞑るの?

そんな事したら、いつキスがくるか分からないよね、無理無理。

クラウディオからすごくいい匂いがする。

ケイト様と同じくらいいい匂い。

心臓がびっくりするくらいの大きな音をたてている。


「でも、キスはやめておこうね。」

クラウディオはそう言うと体を離した。持ち上げられていたマルの顔が戻されて、肩から手が離れる。


「もうすぐ結婚するんだし、ここまで我慢したなら結婚まで待つよ。」


「試したんですか?」

さっきのドキドキの反動で、ちょっと涙ぐみながらマルは聞いた。


「うーん、試したというか、これはイジワルしただね。」

クラウディオはマルの涙をそっと拭った。


「こういうのは心構えでどうこうなるものじゃないし、ゆっくり進めていけばいいと思うんだ。」


「でも、結婚するんですよ?」

「うん。結婚したらキスしようね。」

「子ども扱いしないでください。」


結婚したら、キスだけで済まないことくらい知っている。

マルはちょっとむっとしたが、さっきの寸止めは自分が思っていたよりずっと緊張したので、これ以上クラウディオに距離の話をするのはやめようと思った。



「ラウの優しいところは好きです。でも夫婦になるんだし、過度に気を使うのはやめてください。」


「分かったよ。このまま隣に居てもいい?」

「ふん、拒みません。」


2人は並んで座って帰った。




***

結婚の前日に新居への引っ越しをすることになり、引っ越しの前夜、マルはケイトと夕食を共にした。


ケイトはマルがブランシュ邸を出ていくのを寂しがってくれて、いつでも遊びに来てもいいと言ってくれた。



次の日、マルは新居に引っ越しをした。

屋敷に着くと、庭で園丁と作業していたクラウディオが迎えてくれた。

クラウディオはマルより2日前にこちらに移っている。


「ようこそ、マル。」

新居で、クラウディオにそう言われて、マルはこの人と結婚して一緒に暮らすんだな、という実感がわいてくる。


明日、本当に結婚するんだ。

なんだか、ムズムズする。


結婚、、、、。

不安がわいてきそうになって、マルはそれらを振り払った。



「本日より、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。アンがずっと君を待ってるよ。」


「あれ?もう着いてるんですか?」

ターゼン家より、ずっとマルに付いていてくれたアンは、侍女長として居てくれることになっていた。


「うん、僕と同じ日に着いたんだ。」

「そうなんですね。仲良くなりました?」


「君の話をたくさんしてくれた。もうずうぅーっと君の話。」

「うわあ、すいません。」


「ううん、楽しかったよ。ところで、マル。」

「はい。」


「そろそろ敬語、やめてほしいな。」

クラウディオはにっこりした。


「、、、、がんばります。」

「んー?」

「、、、、がんばる。」






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